ハランド編9 前世に囚われし者②
リリスは焦っていた。
あと1手が届かない。
2本の剣で攻撃しても防がれ、3本目が降ってくる。
キョウはまだ倒れている。
突破口を開きたい。
「スキル・剣舞!」
2閃が同時に魔物に飛ぶ。
守りに腕を2本使わせた。
その隙を見逃さない。
「スキル・居合い斬り!」
腕はかわされたが、胴体に大きな傷をつけられた。
これで動きが鈍くなるはず。
「リリス!」
キョウが走ってくる。
後ろを見ると、キキラが倒れている。
「キキラはどうしたの?」
「気絶しているだけ。詳しい説明は後。まずはコイツを倒そう」
そこからは早かった。
伸縮する腕の範囲を把握したキョウが守りを務め、的確にパリィしていく。
それに合わせて刀を振るう。
あっという間に2本の腕を切り落とし、最後の1撃を放つ。
「スキル・剣舞」
魔物は3つに斬り裂かれた。
》
キキラは、目を覚ました。
不安そうな顔をしている2人が見える。
気絶する前のことを思い出す。
「大変、ご迷惑をおかけしました......魔物はどうなりましたか?」
「私が三枚おろしにしてやったわ」
「よかった......」
キキラの顔は、蒼白になっている。
水筒を渡し休息を勧める。
「私、お2人に秘密にしていたことがあります。
もうすでにご覧になったと思いますが、暴走してしまうのです......」
鳴りやまないヒールの声。
恐慌状態に陥ったようだった。
「私の前世。
火薬の臭いと爆発、それが全てでした」
思い浮かぶ、前世の戦場。
「その中で、彼だけが救いだった。私が、密かに想い続けていた人」
キキラが声を絞り出すように語り続ける。
「彼は、私を爆発からかばって死にました。私のヒールは届かなかった。
彼の身体が冷たくなっていく感覚は、いまでも、鮮明に手のひらに残っています......」
僕とリリスは言葉を失い、ただ聴くことしかできない。
「私は、魂卸の儀によって前世の記憶を全て思い出しています。
楽しかったこと、うれしかったこと。
それでも、彼の最後がどうしても忘れられないのです」
キキラの瞳から、涙があふれ出た。
嗚咽まじりに泣き続ける。
≫
キキラが、ようやく落ち着きを取り戻した。
「大変、ご迷惑をおかけいたしました。謝罪いたします。
こんなヒーラーを抱えていては、いつか、お二人に取り返しのつかない過ちを犯してしまうかもしれません。
......私をパーティーから外してください」
キキラが、覚悟を決めた顔で言う。
きっと、何度も遭遇した状況なのだろう。
「そんなことないわ。
キキラはもう、わたしたちの仲間。
パーティーから外すなんてことは絶対しない」
リリスが力強く言う。
「わたしたちが傷つかなければいい。ただそれだけの話。
そうでしょ、キョウ」
「そうだね。
僕たちはもう仲間だ。
キキラ、君の抱えている苦難を、僕たちにも背負わせてほしい」
キキラの瞳から、再び涙が流れ出す。
「よいのですか? 私はこのパーティーにいて」
僕たちは、力強くうなずく。
この2人に巡り合うことができてよかった。
無意識に祈りの姿勢をとり、キキラは泣き続けた。




