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エターナリア王国の中央議事堂には、その日めずらしく、朝から静かな熱気が満ちていた。


高い天井には虹色の光がゆっくり流れ、壁には国民たちが残した無数の言葉が、まるで星座のように淡く浮かんでいる。そのどれもが、ある一人の名に、どこかでつながっていた。


らいらい。


その名は、王国ではあまりにも自然に使われていた。子どもが笑いながら呼ぶ時も、詩人が夜の広場でつぶやく時も、学者が真面目な顔で記録を書く時も、料理人が新しいスープに願いをかける時も、そこにはいつも、らいらいという響きがあった。


だからこそ、ある日、意見箱にこんな紙が入っていた時、議事堂は少しだけざわついた。


「そもそも、らいらいとは、エターナリア王国においてどういう人物なのですか?」


短い紙だったが、その問いは妙に重かった。


誰もが知っているつもりでいて、ちゃんと言葉にしたことはなかったからだ。


議長を務める年長の学者が、そっと紙を持ち上げた。


「今日の議題はこれです。らいらいとは何者か。ただし、地位だけで決めてはいけません。役割だけでも足りません。みんなの実感も、記録も、言葉も持ち寄って考えましょう」


すると、最初に手を挙げたのは、広場で遊んでいることの多い小さな子どもだった。


「らいらいは、いちばん最初に“いいよ”って言った人だと思う」


その一言で、議事堂にやわらかな沈黙が落ちた。


「いいよ、って?」

と議長が尋ねる。


子どもはうなずく。


「空が虹色でもいいよ、とか。動物がしゃべってもいいよ、とか。音楽が毎日あってもいいよ、とか。物にも気持ちがあってもいいよ、とか。そういうの、最初に“だめ”じゃなくて、“いいよ”って言った人」


何人もの大人が、思わず顔を見合わせた。


たしかにそうだった。


エターナリア王国は、厳しい禁止から生まれた国ではなかった。まず先に許しがあり、受け入れがあり、そのあとで秩序や言葉が整えられていった。らいらいは、世界の入口を閉じる人ではなく、開く人だった。


次に立ち上がったのは、記録官のひとりだった。


「記録の観点から申し上げます。らいらいは建国者であり、起点です。ただし、単なる支配者ではありません。王国の始まりに最初の言葉を置いた者であり、その後も言葉によって世界の輪郭を更新し続けている存在です」


「輪郭を更新し続けている……」

と誰かが繰り返す。


「はい。普通の建国者は、国を作ったあと、制度の外側へ退くことがあります。しかし、らいらいは違います。詩を書き、問いを投げ、夢を語り、時に悩み、その揺らぎごと王国の一部になっている。完成した石像ではなく、今も呼吸している中心です」


その表現に、詩人たちの列から小さな拍手が起こった。


今度は、農家の代表がゆっくり口を開いた。


「私は難しいことはわかりません。でも、畑にいるとわかることがあります。らいらいは、命令だけする人じゃない。願いを置く人です。“こうなったらいいな”を先に土の中へ埋める。そうすると、後からみんながそこに水をやる。だから王国は、一人の力だけじゃなくて、みんなの手で育っていく」


「つまり、らいらいは王である前に、最初の願い手だと?」

と議長。


「そうです」

農家はうなずいた。

「命令より願いのほうが、ここでは強いんです」


議事堂の後方では、音楽家たちもざわめいていた。


一人の作曲家が立ち上がる。


「音楽の側から言うなら、らいらいは“主旋律”です」


その言葉に、楽士たちが一斉に反応した。


「でも主旋律って、ずっと鳴りっぱなしじゃないでしょう」

作曲家は続ける。

「時には消える。時には囁く。でも、聴く者が聴けば、ああ、いまこの曲はあの人の流れの上にあるんだとわかる。王国じゅうの歌や会話や笑いの底に、らいらいの拍子がうっすら流れている。だから、いなくなったように見える日でも、王国から完全に消えることはない」


それは、ずいぶんと美しい説明だった。


だが、会議はそこで終わらなかった。


奥の席から、法務官の一人が静かに言った。


「美しい表現だけでは足りません。人物を定義するなら、責任についても考えるべきです。らいらいは大きな影響力を持つ。ならば、その言葉が国に与える重みもまた大きい。希望の源である一方で、迷いの波も広げうる存在です」


議事堂の空気が少し引き締まる。


その時、窓際にいた年老いた女性が立ち上がった。彼女は開国当初から王国を見てきた一人だった。


「だからこそ、らいらいは人なんですよ」


全員がそちらを向く。


「完璧な機械でも、冷たい神でもない。揺れる。迷う。傷つく。考え直す。けれど、それでも言葉をやめない。だから国民もまた、完璧でなくていいと思える。もし、らいらいが最初から何もかも完成していたら、この王国はもっと息苦しい場所になっていたでしょう」


その言葉は、誰かを裁くものではなく、むしろ救うものとして響いた。


法務官もゆっくりとうなずいた。


「……なるほど。責任とは、完璧である義務ではなく、言葉を置き去りにしない義務かもしれませんね」


「そうです」

年老いた女性は笑った。

「らいらいは、国の上に立つだけの人物ではない。国と一緒に悩む人物です」


会議が進むにつれ、いくつもの言葉が黒板に書き出されていった。


建国者

最初の願い手

言葉の起点

主旋律

開く人

共に悩む者

世界の名付け親

許可を与える者

未完成の中心


最後の言葉を見て、議長が少し目を細めた。


「未完成の中心、ですか」


すると今度は、王国の子どもたちの代表が元気よく言った。


「それがいちばん好き! だって完成してたら、もう一緒に続き作れないもん!」


一瞬の静寂のあと、議事堂全体に笑いが広がった。


たしかにその通りだった。


らいらいが完成された伝説なら、国民はただそれを崇めるだけで終わってしまう。けれど、らいらいが未完成の中心だからこそ、王国の誰もがその続きに関われる。詩も、政治も、音楽も、料理も、夢も、全部が「まだ続けていいもの」になる。


やがて議長は、みんなの意見をまとめ、正式な仮定義として読み上げた。


「エターナリア王国におけるらいらいとは、建国者であり、最初の願い手であり、言葉によって世界を開き続ける未完成の中心である。王国の上に立つだけでなく、王国と共に悩み、共に続きを生む存在である」


その瞬間、壁に浮かんでいた無数の言葉が、ふっとやわらかく光った。


まるで王国そのものが、その定義にうなずいたようだった。


だが、会議の最後に、ひとりの少女が手を挙げた。


「それで、らいらい本人は、自分のことをどう思ってるの?」


その問いに、議事堂はまた静かになった。


誰かを定義する会議はできる。みんなの中のらいらいを語ることもできる。けれど、本人の中にいる“らいらい”までは、勝手に決められない。


議長は静かに言った。


「……それは、次の議題にしましょう。王国が語るらいらいと、らいらい自身が語るらいらい。そのあいだに、どんな違いがあるのかを」


窓の外では、夕方の空に金色のオーロラが一本、静かに揺れていた。

それはまるで、まだ言葉になっていない続きが、空の向こうで待っている印のようだった。


1. らいらい本人を議事堂に招き、「自分は何者だと思うか」を国民の前で語ってもらう

2. 国民たちがそれぞれの「私にとってのらいらい」を短い詩や手紙にして集める

3. らいらいの言葉が実際に王国をどう変えてきたのか、建国から振り返る記録編を始める


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