エピローグ「そして世界は米に染まる」
それから数年後。
この国には、奇妙な風習が根付いていた。
季節の変わり目になると、人々はこぞって『福巻き』を買い求め、その年の吉方位を向いて無言でかぶりつく。
かつては「野蛮だ」「奇行だ」と言われたその光景も、今では国民的な行事となっていた。
王都の大通りには『銀の葉商会』の本店が建ち、リリアナはその経営者として忙しい日々を送っている。
テオは物流部門の責任者となり、国中に新鮮な野菜と米を届けている。
そして俺はといえば。
「パパ、見て! 大きなお芋が取れたよ!」
畑で泥んこになった少女が、俺に駆け寄ってくる。
「おお、すごいな。これはきっと甘いぞ」
俺は娘を抱き上げ、広大な農地を見渡した。
黄金色に輝く稲穂の波。色とりどりの野菜畑。
かつての荒れ地は、今や国一番の穀倉地帯となっていた。
「カイ、お昼ご飯できたわよー」
家の軒先から、リリアナが手を振っている。少し大人っぽくなった彼女は、エプロン姿が板についている。
今日のお昼は、きっとおにぎりだ。
コンビニ弁当の開発に追われ、過労で倒れた前世の俺。
今世では、自分の育てた作物を、愛する家族と食べる。
これ以上の幸せがあるだろうか。
「今行くよ」
俺は娘の手を引いて、家へと歩き出した。
空は青く、風は稲の香りを運んでくる。
異世界転生、農業チート、恵方巻。
よく分からない組み合わせだったが、結果オーライだ。
俺の人生、これにて満腹。ごちそうさまでした。




