とある記念日〜権田さん七変化〜
今日は、鍋パーティーをすると石藤家に招待を受けていた権田。パーティーに必要なモノをお店に取りいくという良二と桜に「準備などに必要ならいつでも、買い物などにお送りしますよ」と申し出たのだが……。
「いや! 今日は権田さん、運転はせずにゆっくりしていて下さいよ!」
「そ、そうですよ。お店は近いですし、今日は運転はなさらなくて大丈夫です!運動不足解消がてら、私達徒歩で行って来ますから!」
「そ、そうでございますか……?(私の運転手としてのアイデンティティが……)それでは、くれぐれも お気を付けて行ってらして下さいね。」
必死に断る二人に権田はしょんぼり気味に声をかけたが……。
「それで、権田さん。申し訳ないのですが、買い物の間子供達をお願いしてもよいですか?」
「20分程で戻れると思うんですが……」
「……!✧✧ 了解致しました! この権田、全力を持ってお世話をさせて頂きます。 スミレお嬢様! 香二お坊ちゃま! よろしくお願いしますね?」
「ん! ごんだぁ、遊んであげるね〜?」
「だぁっ! ね〜?」
代わりに良二とさくらに、子守りを頼まれ、顔を輝かせる権田、嬉しそうな二人の子供達に笑顔になりつつ、互いに意味ありげに目配せをするさくらと良二。
「助かります〜(この分だと気付いてなさそうですね? 良二さん?)」
「それじゃ、お願いしますね(ああ。サプライズ行けそうだな? さくら?)」
✽
良二とさくらが家を出た後、子供部屋に移動した権田と子供達。
「ナウなベヤングにバカウケですっ! アイムソーリー、ハゲソーリー!」
「キャハハッ! ごんだ面白い!!」
「キャッキャッ!」
「ううっ……。スミレお嬢様、香二お坊ちゃまにこんなに笑って頂けて権田は幸せですっ!」
カップ焼きそばやハゲの鬘を使っての力技のギャグが子供達に受け、権田が嬉し涙を流した時……。
「権田、今度は変身して〜?えーと、お巡りさんと、猫と、スターになって?」
「了解致しました。お安い御用でございます」
スミレの無茶振りをされるも、笑顔で承る権田。
「まずはお巡りさんから!
『来い、お前の全てを否定してやる』」
「え〜?それ、お巡りさんなの?」
「ん〜??」
鋭い表情で剣を構える格好をする権田に、首を傾げるスミレと香二。
「明治時代のとある警察官の方なのですが、分かりにくかったでしょうかね?」
二人の反応に苦笑いする権田。
「失礼致しました。では、次の猫に参りますね? ニャ〜ン♪ ゴロニャ〜ン♪ カリカリカリ……。」
「アハハ、あんずちゃんそっくり〜!」
「あん…っ!」
権田は以前ユーチューブ動画で使ったあんずそっくりの猫マスクを借りて、床に体を擦り付けたり、猫缶を開けたくて爪で引っ掻くポーズをとり、子供達に大ウケしているところに……。
キィ……。
「ニャ……。!??||||||||」
お昼寝が終わり、開いていたドアの隙間から子供部屋を覗きに来たあんずは、自分と同じ顔の人間が自分のお気に入りの猫缶をカリカリしている姿を目にして固まる。
「フ、フギー!! ニャニャーッ!!」
「ああっ。あんず様! 攻撃を仕掛けるのはお止めください! 猫缶はあんず様に差し上げますからぁっ!!」
「やっぱり本物の方が強いのかぁ……。」
「あんっ……、つよ!」
全身の毛を逆立てて飛び掛かろうとするあんずを、権田は慌てて宥め、スミレの納得したように言った事に香二も頷いていた。
「ニャニャッ♡ハグハグ……」
スミレ、香二の隣で、猫缶を満足そうに食べているあんずをチラリと見遣ると、
権田はスミレと香二に向き合った。
「では、気を取り直しまして、スターをやらせて頂きますね?」
「ごん……だ……??」
「ごん……?? くろ……?」
わざわざコスチュームに着替え、鬘を被り、お化粧まで施したその姿に、スミレと香二は唖然とし……。
✽
そして、20分後――。
「(さくら、気付かれないようにそーっとだ)」
「(分かってますぅ……)」
カチャッ……。
買い物を終え、帰宅した良二とさくらは静かに玄関のドアを開け、室内に入った。
チャッチャッチャラチャ〜♪
「「ギャハハハ!」」
「ニャン♪」
子供部屋から音楽と子供達とあんずの声が漏れ聞こえ来る。
「(何だか、向こうで盛り上がっているみたいですね?)」
「(ああ。この雰囲気に乗じてサプライズしようか?)」
良二と桜は顔を見合わせて笑い、抜き足差し足で子供部屋に向かった。
実は今日は権田の誕生日。元探偵業の彼に気付かれないように細心の注意を払って密かにお祝いの準備を進め、先ほど、彼の気に入りそうなオリジナルの面白Tシャツやパーティーグッズを買って来たのだった。
子供部屋の前で、先ほど買ってきたクラッカー(火薬なし)とプレゼントをそれぞれ手にして頷き合う二人。
「それじゃ、良二さん、行きますよ?」
「おう。」
「「せーのっ!」」
ガチャッ!
「「権田さんっ!誕生日、おめでと…………」」
ドアを開けると同時にクラッカーを構えてサプライズのお祝いを告げようとした二人が見たものは……。
チャッチャッチャラチャ〜♪
「ポウッ!」
「「!???」」
黒い帽子にキラキラした黒い衣装を身にまとったアフロヘアーの男性が、ムーンウォークを披露しているところだった……。
「「キャハハハハハ!」」
「ニャ♪ニャン♪」
男性のダンスに、子供達が大ウケし、あんずがリズムに乗っている。
「「え、えっと……。どど、どなた……ですか?」」
良二とさくらは、家の中で◯イケル・ジャクソンそっくりの格好の人がビ◯ー・ジーンを踊っている事態を受け入れられず、涙目で尋ねたのだった……。
✽
そして、更に数十分後――。
「いや、先ほどは調子に乗ってやり過ぎてしまい、大変申し訳ありませんでした!」
家族全員でテーブルで鍋を囲む中、頭を下げる権田に、良二とさくらは笑顔で手を振った。
「いえいえ、スミレ、香二、あんずも楽しませてもらってましたし! 権田さん、扮装が本当に上手ですね」
「本当ですね。一瞬本当に◯イケルさんがお家にいるかと思っちゃいました。動いてお腹が空いたでしょう?今日は主役なんですから、どんどん食べて下さいね」
「ごんだ〜! いっぱい食べてるのよ〜?」
「ごんっ! たべ!」
「ニャン!」
「まさか自分のような者の誕生日を祝って頂けるとは思わず……。あ、ありがとうございますっ……!!ううっ……」
石藤家の面々に温かい言葉をかけられ、権田は涙を落とした。
以前、家族を事故で失ってしまったけど、忠誠を誓う主人の娘家族との確かな絆を感じる事が出来ていた。
このご家族を守る事が出来て本当によかったと思いながら、今服役中の彼に思いを馳せた。
「(白鳥様には、出所後に再びご家族の脅威となりませんよう就職先(地下の労働施設)をご紹介し、未来の子供達の為に働いて頂かねばなりませんね……)」
「え?権田さん、何て?」
ボソッと呟いた権田にさくらが聞き返すと、彼はにっこりと微笑んだ。
「いえ。子供達の未来の為、持続可能な社会を作っていかなければと思っていたところでありますよ?」
✽あとがき✽
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