邪悪な意思
その様子を呆れたように見下ろす小暮。
「総長、そんなに桜咲イノリをつぶしたいなら、少し卑怯ですが手段はありますぜ」
そして言い放った。
「手段?」
朝田が顔を上げる。
小暮がしゃがみ込んだ。そして手にするスマホを広げた。
「あの水着姿を見て思ったんすが、あいつはあいつで、所詮女でしょ? その女の部分を攻撃するんですよ」
「女の部分?」
「所詮女は、顔が命でしょ」
「顔をつぶす……ってことか?」
「そんな大それたことはしないっすよ。だけど、悪い噂ってのは直ぐに出回る。今やインターネットの時代っすからね。つまり精神的に追い詰めりゃ、ノコノコと表は歩けないってことです」
こうして二人、スマホの画面を覗き込む。
「成る程、嫁にいけねーな、これじゃ」
「でしょ? 今の時代、ケンカが強くとも、世間一般的に、強いって訳じゃない。インターネットで精神力を叩き潰せば、案外勝てる勝負もあるんですって」
こうして、あたしの知らない所で、邪悪な意思が動いていたなど、当のあたしは、知る由もなかったんだ。
♢♢♢
「よう、イノリ。今日も真っ直ぐ帰宅か。若い女が、そんなんじゃダメだろ。それがおめーの、輝ける青春か?」
あたしが帰宅すると、家の前で四十歳程のオッサンが挨拶を交わして来た。
ランニングシャツに派手な短パン、雪駄を乱雑に履きこなす、ダルそうな中年だ。
「……なにが青春だよ? あたしらはあたしらで、青春真っ盛りなの」
あたしは返す。
「だわな面倒くせー会話は、無用か。……イノリはイノリだもんな」
そしてオッサンは、何事もなかったように、ウチワをパタパタ扇ぎ出す。
……このオッサン……もとい、男はあたしの親父。見た目通り、ヘラヘラした呆れた父親だ。
職業はギャンブラー。そんなんでウチの家計が成り立ってるんだから、文句も言えないが……
「最近の若い女は、男にべったりで、派手な青春演じてるってのに、ウチの娘は奇特だねぇ」
飄々と言い放つ親父。
「親父に言われたかないな」
吐き捨てて玄関に侵入した。
親父がこんなんだから、ウチはいつでも貧乏なんだ。
ギャンブラーっても、派手な大勝を続けてる訳じゃない。母さんが必死にやり繰りして、家計を支えてるんだ。
だからあたしは、『いつか貧乏から脱却してやる』って思っていた。
男の力に頼らずとも、あたし自身の力で……




