対抗勢力
一方そのビーチで、ナンパに明け暮れる集団があった。
ヤンキーらしき、海パン姿の五人の集団だ。
「クッソー、マシな女がいねーな」
「マジっすわ。総長の好みの女など、そうそういる訳ないんすわ」
リーゼント頭の強面の小太りを中心に、意気揚々と砂浜を歩いている。
どうやらナンパは、ことごとく玉砕しているらしい。
「大丈夫ですって、これだけ女がいるんだ。ひとりくらいデブ好きも居ますって」
後方のサル顔の男が言った。
ビシッ! すかさず入れられる、小太りの裏拳。
「すいません」
サル顔が速攻で謝った。
彼らは地元のロード系チーム“ロードオブファントム”のメンバー。
小太りは総長の“朝田”。サル顔は総長補佐の“小暮”。
イノリ達デュランダルの、ライバルチームメンバーだ。
ナンパに来たはいいが、朝田の恐ろしすぎる面構え、その容姿に相手は捕まらない。
流石に誰もが、うんざり状態だった。
「仕方ねーな。寝て日焼けでもするか」
渋々言い放つ朝田。
「チャーシューにならないよう、程ほどにね」
小暮が突っ込む。
ビシッ! 再び裏拳が入れられた。
馬鹿げたやり取りだが、彼らにとっては普段通りのやり取り。
絶妙なバランスが彼らの中には存在していた。
「おー、痛てー」
鼻をさすりながら、何気に辺りを見回す小暮。
「総長、総長。あれってデュランダルの奴らですよ?」
そして奥方向を指差した。
「確かだ、デュランダルの藤井虎太郎だ。他にもメンバーが数人」
「それより凄い人の数じゃねぇ? しかも若い女ばかり」
「あの白い水着の女、スゲー可愛いし」
それは彼らからすれば憧れの光景だ。
デュランダルは虎太郎を筆頭に、イケメン揃い。
容姿で、彼らに太刀打ち出来る筈はなかった。
小暮はジッと目を凝らし、視線を向けている。
「……あれって。あの女、総長の桜咲じゃないっすか?」
そして愕然と言い放った。
「ホントだ。髪を下ろしてるから判らんかった」
「い、い、祈り姫の水着姿? 人影が邪魔で見えにくい」
「こうして見ると、とてつもなく可愛いんだけどな。ボン、キュッ、ボン。体型も理想的だ」
恍惚の眼差しを向ける他の三人。
桜咲イノリの存在は、彼らとて理解はしてる。敵対してるが、とてつもない美少女だとも理解してた。
だがあんな薄衣に身を包んだ姿は初めて見た。少しばかり前屈みになるのも、仕方ないだろう。
それとは別に、朝田の方は訝しげな表情だ。
「クソーッ、桜咲イノリ。女だてらに俺らの邪魔をする、ふてぶてしい輩」
怒り心頭気味に吐き捨てる。
その台詞に、朝田に視線を向ける他の面々。
だがその視線は覚めたような冷たいものだ。なに言ってんだこいつ、馬鹿じゃねぇ。そんな冷静沈着な視線。
「なんじゃ? てめーらは、女に馬鹿にされて悔しくないのか?」
それでも朝田は、同意を求めるように言い放つ。
「同意したいっすけど……」
「総長……下」
「元気っすよ」
「なに?」
その仲間の返答に、困惑気味に視線を下げた。
「うおっ?」
慌てて腰を引いた。
ムカつきで、血は頭に行ってると思っていた。しかしそれは下半身に行き届いていた。ビクビクと熱い血潮を感じる。
「総長も、身体は正直ですね」
「いいじゃないっすか。いいモン見せてもらったし」
「俺、祈り姫のファンになろうかな」
朝田と小暮はともかくとして、他の三人は既にイノリの姿にメロメロ状態だった。
「舐めんな、小僧共! 俺達は湘南ロードオブファントム。そんな根性で戦争に勝てると思ってんのか?」
すかさずその三人に拳を打ち込む朝田。
朝田の目標は、ロードオブファントムの名を有名にすること。
弱小チームのレッテルを外して、少なくとも中堅チームに成り上がることだった。
「すんません」
「悪かったっす。俺ら最強のロードオブファントムっすもんね」
「総長は偉大っす」
その朝田の男気を酌み入り、三人が頭を下げた。
だがその様子は、他の人々からすれば異様な光景だ。
「あの豚さん、パンツがふくらんでるよ?」
「馬鹿、見ちゃいけません」
「なんだよあいつ、そうとう溜まってるぞ」
「爆発しそうな勢いだよな」
「割りに小さいけどな」
「警察呼ぶか?」
訝しそうに口々に呟いていた。
もちろんその会話は、朝田にも丸聞こえだ。
かざした拳を力なく落として、ワナワナとしゃがみ込む。
「くそっ! 身体が言うこときかねーんだよ」
男気よりも、色気の方がこびりついていた。
偉大なる夢を画く朝田だが、実際はイノリに勝ったためしはなかった。
イノリはともかく、龍次や虎太郎といった、屈強な男がイノリをガードしていたから。
なによりイノリの可愛さにぞっこんだった。




