夏だ、海だ、白いビキニだ!
それから数日後の海岸沿いは、幾多の海水浴客で溢れていた。
輝く太陽。ジリジリと突き刺す陽射し。ザーッと押しては返す波の音。弾ける水しぶき。和やかな歓声。気持ちよく飛び交うウミネコの声。
熱い季節、夏本番の風景だ。
……だけど……
「おいおい、見てみろよ。あの子、可愛いぜ」
「ホントだ。どことなく“海物語のマリンちゃん”みてーじゃねぇ?」
「どこのアイドルだよ? スタイルいいし胸もデカイ」
男達の黄色い歓声が耳に付く。
「写真、写真、撮っとこうぜ」
「それよりナンパだ。お前声掛けろよ」
「げへへ、怒られねーかな」
舐め回すような視線が痛すぎる。
「ヤッぱ、いいよイノリちゃん。素敵過ぎるって」
眼前では虎太郎が、カンバン片手に笑顔を振りまいていた。
なんであたしが水着姿なんだよ! しかも白いビキニって……顔から火が出る!
あたしは、海の家の箱入り娘を、演じさせられていた。
ソフトクリーム販売。それらの注文取り、及び商品の受け渡しだ。しかもこんなひらひらの、薄衣を着せられて。
あのあと鎌田さんの提案で、鎌田さんが夏の間だけ経営する海の家の、バイトをする羽目になったのさ。
しかも考えが昭和。『うーん。夏といえば海だろ。海といえば水着。……色は白。素材はなるべく簡素で、ヒモ系がいいかな』
最初こそ真面目に考えてたが、最後は鼻の下が伸びっぱなしだった。
もちろんそんな露出の高いモノ、流石にお断り。普通のモノにしてもらったけど。
「うんうん、思った以上に大盛況だぞこれは」
キッチンスタンドの中では鎌田さんが、煙草をくわえてしみじみと呟いている。
「ねーちゃん、バニラとチョコ、いやイチゴもね」
「オネーさん、こっちはスペシャルトッピングでお願いしまーす」
「おい割り込むなよ」
「割り込んじゃいねーじゃんよ」
「いいわ、近くで見るともっといい」
それもその筈だろ、あたしのまん前は、男共で凄い行列だ。
近づく度に鼻の穴をおっぴろげて、至福の表情を見せていく。
ホント散々なんだよ!
……って、文句のひとつも言えないが……
「姫、お美しいです」
「イノリちゃーん、頑張ってね」
「あっしらも、微力ながら応援しますから」
店のスタッフTシャツを着た、暴走族のメンバーも手伝いに駆けつけていた。
「総長のピンチは俺達のピンチ。借金返済の為、一緒に働きます」なんて健気な奴らさ。
「うん、うん、うん。こいつらもイケメン揃いだから、若い女の集客が望めそうだな」
そのやる気を察してか、鎌田さんも満足気に頷いてるし。
「すいませーん。この焼き鳥、一本で五百円って高くないですか?」
「ちょっと、このたこ焼き、さっき落とした奴だよね? 三秒ルールがなんとか言って」
「僕の焼きソバ、さっきの女の人と、全然量が違います」
「えーん! このお兄ちゃんが殴ったー!」
でも、徐々に殺気立ってるのは、気のせいだろうか?
「げへへ、下から撮っても良いかな」
突然、足元に殺気を覚えた。
下から覗き込むように、色白のデブがカメラをかざしてる。
「撮らせる訳ねーだろ、この豚!」
怒りと共に足で頭を踏み付けた。
ぶひっ、という声と共に、色白は昇天する。
「おー、ナイス踏み付け」
「俺もやってもらいたいな」
「あの足首、堪らんなー」
それでも男共の歓声は鳴り止まない。
……まったく、男ときたら……




