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桜咲イノリ 上等です!  作者: 原田真優
第二章 新チーム始動
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悪夢の始まり

「おい、イノリ、虎太郎。手荒な真似はよせ」

 鎌田さんがそれを制した。


「ダメですよ。そもそもあたしが我慢できない。こんな腐った奴らは」

 それでもあたしは許せなかった。


 客と店主の立場を利用して、尊大な態度に出る。そんな奴はどうしても許せない。



「イノリの敵は俺の敵だぜ? 一戦交えちゃうか?」

 それは虎太郎も同じ気持ちのようだ。


「なんだぁ? 女だてらに威勢が良いな。俺達の顔、知らねーようだな」


「ホントだぜ。後ろにチャラけた男を配置してるからって、いきがってちゃ、可愛い顔も台無しだぞ。それともなにか、あんたここのマスターの女な訳?」


「弱そうなマスターと、馬鹿そうな女。良いカップルだわな」


 ヤンキー達は、イスにふんぞり返ってゲラゲラと笑い出す。


 卑下たその態度、あたしを女だと思って馬鹿にしてるようだ。



「上等だよ! 祈りな!」

 怒りと共に、ガラステーブルに拳を打ち込んだ。ビシッと言う音と共に、テーブルが砕け散った。


「えっ?」

「なんて女だよ?」

 その光景に愕然となるヤンキー達。蒼白になり、腰を浮かす。


「あたしの先輩を、馬鹿にするなんて許さないからね!」

 勢い良く拳を振りかぶり、茶髪の腹部に拳を打ち込んだ。



「げおっ!」

 腰をくの字にしてもだえる茶髪。


「つ、つえー!」

 もうひとりのメッシュの男が、豆鉄砲を喰らったように立ち上がる。

 そして入り口目掛けて、走り出した。


「仲間を置いて逃げる気か? そういう奴も嫌いなんだよ!」

 あたしはその襟首を掴み取る。


「ひえっ?」

 そして困惑するメッシュを、窓ガラスに思い切りぶつけた。


 ガシャーン、という音と共に、メッシュの身体が表に転げる。



「悪いんだけど、ここのコーヒーはタダじゃないんだ。きっちり飲食代だけは置いていきな!」

 それにあたしは怒鳴りつけた。


 ホント、迷惑な客なんだよ。

 文句を付けておきながら、あらぬ因縁をつける。

 終いにゃ仲間を置いて、逃げ出そうって腐った性根。男らしさの欠片もない。



「す、すみませんでした」

「お釣りは結構なんで、これで」

 こうしてヤンキー達は、お金をテーブルに置いて、逃げるように立ち去っていった。


 ホント、最初からそうしておけば、痛い目を見なくて済んだのに。呆れの感情しか浮かばなかった。



「まったく困りますよね。ああいう奴らは」

 あたしは、そんなことを思いつつ、苦笑しながら振り返った。



「……」

「……」

 そこでは鎌田さんと虎太郎が、愕然とした表情で立ち尽くしている。



「どうしたんです? お金はここに。二人で2千円ですって、コーヒー1杯6百円だから、少し儲けましたね」


「イノリ、お前」

 呆然と言い放つ虎太郎。


 鎌田さんは無言で計算機を弾いている。



「その金はお前にやるさ」

 言ってその計算機を、あたしの眼前に押し付けた。


「……? 一、十、百、千、万、十万……少し桁が違わないですか?」


「お前への請求書だよ。テーブルと窓ガラス。少なく見積もってもこれぐらいはするんだよ」



 ……それがあの悪夢みたいな日々の、始まりの出来事だったんだ。



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