新総長
窓際から、真っ青に晴れ渡る空と、雄大な海が見える。
空にはそそり立つ入道雲。ユラユラと揺らめく波間には、ウインドサーフィンの影が揺らめいている。
夏真っ盛りの光景だ。
ここは鎌田さんが経営する喫茶店だ。店の名は“サザンクロス”。海沿いに建てられた洒落た雰囲気の店だ。
「はー暑いなー。こう暑いと、外に出るのが嫌になるよ」
虎太郎がテーブルにうな垂れた。
「だね。流石に暑いよ。クーラーさえ完備してくれりゃ、この店ももう少し、いやすいんだけどな」
その手前、あたしは伝えた。
「しかしもうすぐ夏休みだってのに、金もないから暇だな」
「だね。休みになってもお金はない。あってもバイクに消えていく」
あたし達が通うガッコーも、もう少で休み。
待ちに待った夏休みの到来だ。
だけどあたし達はいつでも貧乏。
あたしは、愛するCBXのメンテや改造費で、いつでも金欠状態。
虎太郎も同じく金欠だ。自分のバイクを買う為、必死で貯金をしてるからだ。
「仕方ねーか。俺たちゃこうして、こんな店で暇を潰すのがお似合いなのさ」
「へっへ、そうだね」
「おいおい、コーヒーの一杯で居座る客が、そんな台詞、いえるのか?」
カウンターの中では鎌田さんが、怪訝そうに煙草を吹かしている。
「悪いっすね、俺ら貧乏学生なもんで。卒業したらコーヒーの二杯くらい注文しますよ」
頭を掻きながらへらへら笑う虎太郎。
「そう言うことなんで、勘弁してください」
あたしも上目遣いに鎌田さんを見据えた。
「……仕方ねーな。ウチの後輩は揃いも揃って、人の足元を見やがるから、始末に追えねーよな」
鎌田さんが、煙草の煙をモクモクと吐き出し苦笑した。
「ま、お前らの幹部就任記念だ。今日は奢りにしてやるさ」
そして続けた。
「マジっすか? じゃ、パフェなんか注文しても?」
「あたしも食べたい」
「バーカ。いい加減にしとけ。そこまで言ってないだろ」
デュランダルの新体制は確立していた。
虎太郎は親衛隊長。龍次は特攻隊長。そしてあたしが総長。
あれから、数十分は闘いが続いていた。ガンガン攻撃を繰り出す龍次に対し、あたしのスタミナに分があった。
結果、疲れ果てた龍次の顔面に拳を叩き込み、あたしの勝利と相成った訳だ。
あれだけの白熱した闘いの結果だ。誰もが同意の上、あたしがデュランダル二十三代目総長の座を継いだのさ。
「おいおい、この店はインスタントコーヒーを飲ます気か?」
「マジだわ。インスタントよりひどいぞ。不味くて飲めるか!」
突然、店の奥から怒鳴り声が鳴り響いた。
ガラの悪いシャツを着込んだヤンキーが二人、コーヒーのグラス片手に喚いている。
歳はあたしらと同じくらい、近隣の学生のようだ。
そんな筈は無かった。鎌田さんが淹れるコーヒーは格別だ。あたしらだって知ってる。
しかも奴らのグラスは殆ど氷だけだ。そこまで飲み干して、不味いはないだろ。
「そうっすか? すみませんね、御代は結構ですんでお引取り下さい」
それでも鎌田さんの物腰は低いものだ。
少し前まで、族のリーダーだった男とは思えぬほどに。
「ハァ。そんなんで済ますつもり? こっちは客だぜ」
「オウよ、口直しに別の店でコーヒー飲むから、ワビ代よこせ」
それでも奴らは口々に喚き散らす。最初からそれをせがむのが目的なんだろ。
「なあ、あんたら、よくもそんなみっともない真似出来るよな」
あたしは、ムカつきを抑えきれず立ち上がった。
「だぞ、お前ら。鎌田さんの店は、他はともかくコーヒーだけは美味いんだ」
同じく立ち上がる虎太郎。
おいおい、他はともかくって、それは言い過ぎだろ? 鎌田さん、苦虫を潰したような表情してるよ。




