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桜咲イノリ 上等です!  作者: 原田真優
第一章 次期総長
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いつも通りの光景



「ねぇねぇ、イノリ」


 その不意な声で、目が覚めた。



「ダメだよ、授業中に寝てちゃ」

 あたしの横で、女生徒が神妙そうな表情を浮かべている。



 どうやらあたし、授業中に寝ていたようだ。


 この隣の席に座る、肩まで伸びるサラサラの栗毛の女は“堀川真希ほりかわ まき”。あたしのクラスメートだ。



「サンキュー真希。夕べ遅かったから、眠くて大変なんだ」

 言って両手を空に伸ばして欠伸した。


「ウオッホン」

 手前では英語のセンセーが、胡散臭そうに咳払いをしている。



「まったくイノリったら、女の子らしくないんだから」

 その様子に、真希が呆れたように苦笑する。


「それより昨日もチームの集会だったの?」

 そして問い質す。


「まあな。青春って奴さ」

 あたしは答えた。


「青春ね、男みたいな台詞だね」


 その台詞は聞き飽きてる。だけど真希が呆れるのにも、自分でも少しばかりは納得する。


 あたしが所属するチームってのは、“湘南・狂剣乱舞”と書いて“デュランダル”。

 そう世間一般で呼ぶとこの暴走族だ。


 そこの総長が鎌田さんで、あたしと龍次、虎太郎なんかもそのチームに所属してるって訳。


 ついでに言えば、朝の男達はみんな仲間なんだ。



 チームの人数は、二十人とそれ程多くない。

 しかも鎌田さんの引退が確定すれば、八人の先輩達が去っていく。

 総長が引退したら、同期も引退するのが、ウチのルールだから。



「いつも龍次達とつるんで、楽しいの?」


「そりゃあ楽しいさ。あいつらは馬鹿な奴らだけど、命張れる親友ダチだから。あいつらとつるんで駆け抜ける、夜の風は気持ちいいんだぜ」


「ダチね。龍次とか虎太郎って、ガッコー内じゃ札付きの不良なのに、あっさりと言っちゃうんだ」


「不良って言っても、ただのガキだぜ? いっつも二人でつるんで、馬鹿なことばかりしてるし」

 あたしは返した。


「ふうーん。楽しそうなんだ」

 真希が笑った。




♢♢♢




 家に帰ると、家の前に黒塗りの高級車が横付けされていた。


 それはあたしのじいさんの、使いの車だ。


 あたしのじいさんは、とんでもない人物らしく、政界にさえ顔の利く人物らしい。


 じいさんっても、顔も見たことはない。

 じいさんの孫ってのが、あたしを含めて三十人はいるらしいから、あたしなんかに会う余裕はないんだろ。


 つまり手っ取り早く言うと、あたしの亡くなったばあちゃんが、じいさんの愛人だったって訳。


 じいさんは精力旺盛で、本妻も含めて女が十五人いたそうだから。ホント呆れたじいさんだよ。



 思って玄関傍に目を向けた。



「へへっ、今夜もいい音、響かせてよ」

 玄関先の細長い倉庫には、赤いバイクが停められている。


 “ホンダCBX400F”、あたしの愛車だ。



「ただいま」

 こうしてあたしは、玄関の引き戸を開けて、帰宅した。



 玄関先では母さんと、黒いスーツの男が話をしていた。


「お帰りイノリ」

 母さんが言った。


 男の方は、眼鏡を指でつまみ、軽く一礼する。

 呼応してあたしも頭を下げた。



 この二十歳くらいパーマがかった眼鏡の男が、じいさんの使い、いわゆる執事って奴だ。


 月に一度程、こうしてウチに訪れる。


 母さんとこの男が、なんの会話をしているのかは知らない。だいたいにして、いつも数分で帰っていく。


 だからあたしは、気にもならなかったんだ。

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