殴り込み
ザーザーと降りしきる、土砂降りの光景。全てが白ばむその光景。
ここは“城東高校”、多くの悪党が集まる高校だ。
その校門から、十人程の人影が出てきた。
それは朝田達だった。学校の夏服を着込み、手にはそれぞれ傘を差している。
「補習授業なんざ、かったるいな」
「俺なんて明日もだぜ? 夏休みだってのに堪らんよな」
どうやら補習授業の為、夏休みの学校を訪れていたようだ。
「あん? 誰かいるのか?」
そして怪訝そうに通りの向こうを見つめた。
数メートル手前、雨で白ばむ光景に、立ち尽くす人物の影が見えた。
「朝田!」
昂揚したように叫ぶ人物。
それは龍次だ。白い特攻服に身を包み、傘も差さずに構えていた。
「なんだぁ? デュランダルの馬鹿小僧じゃんか。真昼間から特攻服なんか着込んで、どこかに殴りこみか?」
小暮が言い放つ。
だが龍次は無言だ。睨みを利かしたまま、ゆっくりと近づいてくる。
「おいおい、頭おかしいんじゃねぇ? 言葉を理解してんのかよ?」
「マジだわ。デュランダルは総長もキレもんだが、その兵隊も馬鹿揃いだかんな」
「まさかたったひとりで、俺達にブッコミかけようって、話じゃねーだろうな?」
嘲るように言い放つ朝田達。
「そのまさかだぜ!」
その朝田の頬を、龍次の拳が捉えた。
「ぐおっ?」
いきなりの展開に、後方に吹き飛ぶ朝田。
「てめー! どう言うつもりだ!」
「ケンカなら上等だ!」
呼応して動き出す他の面々。
「ウチの総長を馬鹿にする奴は、この俺が許さねーってんだ!」
しかし龍次は気負わない。
かくして激しい乱闘が始まった。
♢♢♢
「いったいどう言うことだよ? 龍次がやっていたことって?」
あたしは訊ねた。
「イノリ、ウチのガッコーの裏サイトとかって見たことあるか?」
上目遣いで見つめる虎太郎。
「ラインなんかのグループチャットから飛ぶ、悪質な奴だろ。見たことはあるよ、前に一度だけな。だけど普通は見ねーよ。他人の悪口を平気で書き込んであって、ああ言うの見てると無性に腹が立つ」
あたしは吐き捨てた。存在自体は知っていた。
少し前に爆発的に流行ってたらしいけど、今は形を変えて、ひっそり生き残ってる。ホント、他人を中傷するためだけに、そんな面倒くせーことするか?
最近、真希もその被害に遭って、一度だけ覗いたこともある。
あれには絶句した。真希にはありえない、誹謗中傷が沢山書き込まれていた。
正面切って真っ向から言えないようなことを、名前がばれないからって、平気で書き込んであった。それで調子に乗って、あることないこといくらでも書き込む。
文句があるなら、直接言えっての。
あの時の真希は、世の中を信じられないような、寂しいような悔しいような、もどかしい表情をしていた。
それでも、人ってのは、流行り廃りの早いものだ。
数日だけ真希の悪口が書き込まれていたが、ターゲットが変わったのだろう、真希の書き込みは自然となくなっていた。
「そこにイノリの悪口も書き込まれていたんだ」
静かに言い放つ虎太郎。
「あたしの? 確かにあたしは目立つから、中傷する奴もいるよな」
それはなんとなくだが、有り得る話だと思った。
女だてらに暴走族の総長なんかしてるくらいだから。
「イノリの写真が掲載されてたんだ」
「あたしの写真?」
その台詞に虎太郎は、もどかしいようにスマホを広げる。
そしてその写真を、気まずそうに広げた。
そこに映るあたしの写真は、ボコボコに殴られて血で真っ赤に染まった姿だった。
「これってあたしが、レディースに殴られた時の写真じゃん?」
流石に愕然となった。
それはあたしが暴走族に成りたての頃、『女のくせにデュランダルの特攻服か?』なんてレディース共に散々ボコられた時の写真だった。
……もっともその女共、数日後にボコボコに叩き潰してやったけど。
その時の写真が、今更流出してるなんて、流石に驚いた。




