違和感
「そう言えば最近、龍次見かけないな」
あたしは言った。
翌日の朝の光景、いつもとは違う光景。
いつもなら虎太郎の後ろに乗り込んでる、龍次の姿がない。
「さあね、最近あいつ、他でこそこそしてるから」
言って笑顔を見せる虎太郎。それでもその笑顔は、どこか寂しげな覚めたものだ。
「あいつ、イノリに総長の座、奪われて悔しいんじゃねーの?」
「そうっすか。龍次さんはそんなこと気にしない、男気に溢れた人っすよ?」
「バーカ、男気が強いから、逆に負けたことが、悔やまれるんだろ」
「そんなもんすかね」
「そんなもんさ」
仲間達がガヤガヤと囁きあってる。
みんな虎太郎と同じく、覚めた表情だ。口では色々言ってるが、龍次がいないと寂しいようだ。
「それより姫、今日もバイトでしょ? 俺、ソッコーお供しますから」
「バーカ、お前、張り切りすぎだぞ。お前ひとりが、お供する訳じゃないんだから」
「あー、早くガッコー終わんねーかな。終われば夏休みだし。休みの間は、毎日バイトだな。バイトでいつでも、姫の水着が見れる」
「マジだぜ。あの姿、目に焼きついて消えないうちに」
そして口々にわめきだす。
「馬鹿、あたしは見せモンじゃねーんだぞ!」
堪らず一喝した。
こいつらは本気であたしを手伝うつもりがあるのか? エロい視線ばかりしてさ。
そんな男達を尻目に、虎太郎だけは別の方向に視線を向けていた。ガッコーの校門付近だ。
「龍次」
視線に映るのは、龍次の姿だった。
「……あいつ、C組の奴だよな」
ボソッと呟く虎太郎。
龍次が仲良さそうに、スマホを見合う男は、同じ学年Cクラスの、眼鏡を掛けた地味めな男だった。
「珍しいっすね、龍次さんが、あんなオタクと一緒にいるなんて」
「ホントだぜ。あれって岡田って奴だぞ、パソコンが趣味で、インターネットにどっぷり浸かってる奴」
「二人して、エロサイトでも見てんじゃねぇ?」
「言えてる、龍次さんスケベだから。遂にエロサイトに目覚めたのか」
確かにいつもの龍次なら、仲良くしそうな相手じゃない。
それにエロサイトを通じての、仲間とも思えなかった。
龍次はエロいが、エロサイトに嵌るタイプじゃない。
どっちかというと、エロさをあからさまに出すタイプ。正真正銘のエロ少年だから。
「龍次さーん。俺達より早くガッコー来てるなんて、珍しいっすね!」
後輩が声を掛けた。
それに反応して、龍次が一瞬だけこっちに視線を向ける。
だがすぐに向き直り、岡田と共に校舎側に歩き出した。
愕然とした空気に包まれる。誰もがその龍次の行動に、違和感を感じていた。
「まったく、龍次の奴は。エロサイト見てるのバレたからって、気まずくなって逃げ出すんじゃねーっての」
その空気を切り裂くように、虎太郎が笑って言った。
「……ホントだぜ。エロいのは最初からバレバレなのにな」
「それが龍次らしいとこだろ?」
そして戻るやかましい雑音。
この情況、一番違和感を感じているのは虎太郎だろう。一番仲良くて、一番の親友だから。
だからこそ、そんな台詞を言ったんだろう。
男同士の友情、少しだけうらやましく感じた。
そしてホント、龍次の奴はどうしちゃったんだろ?
……少しだけ、寂しい気持ちが溢れていた。




