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桜咲イノリ 上等です!  作者: 原田真優
第一章 次期総長
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桜咲イノリ




 波の音がやさしくざわめいている。



 空は晴れ渡り、雲ひとつない。

 ウミネコがにぎやかに飛び交い、和やかさを演出していた。


 それはいつもの光景。いつもの見慣れた朝の通学路の光景だ。



「よお、イノリ、お早う!」


「イノリ、夕べはサイコーだったな。お陰で今日は、眠さ倍増だぜ」

 後方から声が響いた。


 それはスクーターに二人乗りした、ブレザー姿の男生徒だ。

 そしてこの二人の登場も、いつもの光景だ。いつでも二人乗りして、後ろから挨拶してくる。



 あたしの名は“桜咲おうさきイノリ”。私立、海原うなばら高校に通う二年生だ。

 一応、女ってことで。



 因みに二人乗りの手前、運転してる長い金髪の優男は“藤井虎太郎ふじい こたろう”、後ろの黒髪リーゼントの男は“江原龍次えばら りゅうじ”。

 共に、同じ海原高校のクラスメートさ。



 そしてこいつらが現れたってことは、次の展開もお決まりのパターンだ。



「龍次さん、虎太郎さんオハヨーっす! イノリさん、今日も気合バリバリっすね!」


「姫。オハヨーっす。今日もお綺麗で!」


「お早うっす。寝不足でアカンす!」


「チーッス。今日もいい天気ですね。ガッコーなんてサボっちまいましょうよ」


 後方から響きだす、うるさい雑音。

 どいつもこいつも、独特の個性を放つ集団。同じガッコーに通う、多くの仲間達だ。


 そのほとんどが、海校のブレザーに身を包んでいるが、中には私服の奴らもいる。


 ウチのガッコーは、私服での登校も許されているんだ。


 かく言うあたしも、制服なんて着てはいない。裾丈のジーンズに、シャツとアロハだ。


 ウチのガッコー、市内では飛び切り可愛い制服なんだが、あたしには不似合いだから。

 チャラけた、いかにも女子高生なんて制服、あたしが着る筈もないんだからな。



「へぇーイノリ、髪の毛伸びたじゃん」

 突然龍次が、あたしの髪の毛を掴み上げた。


「な、なにをするんだよ?」

 咄嗟に振り返り、その腕を払った。


 それでも龍次の表情は、にやけたものだ。


「ヤッパ可愛いよ。ショートヘアーもいいけど、イノリは長い髪の毛が似合うって」

 躊躇いなく言い放つ。



「ハァ?」

 その台詞は、あたしの怒りを呼び覚ますに充分なものだ。


「言ってるだろ。あたしをそんな目で、見るなって?」

 困惑気味に言い放った。


 あたしはこの、少しだけふんわりとさせたブラウンの髪がお気に入りだ。それを後ろの位置で束ねてポニーテールに遊ばせてる。


 本当は龍次みたいに、リーゼント頭で決め込みたいところだけど、流石にそれは似合わない。


 クラスの女達は『今どきで可愛いよ』とか『こっちを上げた方がお水系みたいでイケてるよ』なんて言い放つが、そんな流行廃りに乗るほど、あたしは軽くないんだ。



「そう目尻をつり上げんなよ。可愛い顔が台無しだぜ。笑ったときの、かまぼこみたいな目が可愛いのにさ」


「馬鹿、勝手に言ってな!」



 あたしは、男のエロい視線が大嫌いなんだ。


 この世に女と男がいる限り、好き嫌いっていった、恋愛感情は生まれるもの。それは承知している。

 だけど嫌なんだ。女が女らしくあるべきだとか、男は男らしく堂々と振舞えって、下衆な考え。



 女がつつましく、男の懐に抱かれて生きるなんて時代は、とうに過ぎたのさ。

 女がビジネスの現場に足を踏み入れ、男は強さを求める時代から足を踏み外して、軟弱野郎に成り下がった。


 だからあたしは、覚悟を決めたんだ。

 女らしさを捨てて、世の中の男共を、足元にひれ伏せてやるって。

 その為に女らしさ、可愛さなんて捨ててやるって。


 その影響もあってか、後輩たちは、あたしを『姫』と呼ぶ。


『俺は姫を見てるだけで嬉しいッス』とか『くっきりした眉と、少しつり上がって、くっきりした目が美人なんす』とか『姫がホントの姫だったら、綺麗だろうな。白い純白のドレスで、身を包んでさ』とか『ドレスよりナース姿の方が、イケてるって。エロい光景が浮かぶようだ』なんて言いながら、想像力豊かに……




「そういや聞いたか? “鎌田かまたさん”、近じか引退するってよ。寂しくなるよな」

 龍次が言い放つ。


「ああ、聞いてる。ガキが出来て、家業に専念するって話だろ。……仕方ないさ、家族ってのも大事だから」

 あたしは覚めたように答えた。


 もちろん、その言葉に真意はない。


 鎌田さんってのは、一個年上の先輩だ。

 後輩の面倒見もよく、誰からも好かれる先輩で、男気もある。


 一生添い遂げたい女がいて、この春めでたく、新しい命を授かった。


 ガッコー側は、『問題だろう』とか『そんな生徒をウチに置いておける訳がない』とかで退学処分に下されたが、あたしらにしてみれば、ヤッぱ尊敬しうる先輩なんだ。



「そうすると、次は後継問題だな。俺らとしちゃ、イノリが適任なんだけどな」

 虎太郎が言い放った。


「おいおい虎太郎。俺を差し置いて、イノリを推薦か。 俺の、男の価値が下がるってモンだろ?」

 龍次がブーたれた。


 それでもその顔色は、不貞腐れたものではない。困惑しながらも、おどけたようなノホホンとしたものだ。


「悪い龍次。別にお前の力を、馬鹿にしてる訳じゃないぜ」

 すかさず答える虎太郎。



 龍次は男の美学ってものに惹き付けられている。『ケンカ上等』が口癖で、いつも闘いに明け暮れる武闘派タイプな男だ。


 逆に言えば、女は一歩下がって付いて来いって言いそうな、硬派な奴。

 あたしを女と認識し、『その服装は可愛くない。もっとお洒落な服を着ろよ』とか『少しは化粧しろよ。薄化粧でもすれば、そこらのアイドルにだって負けないぜ』とか、女らしくするよう言い放つ。



 対する虎太郎は、見た目通り軽い口調の持ち主だ。『俺はこのままのイノリが、カッコいいと思うぜ? 男っぽい中のキリッとした女らしさ、それこそ俺らのイノリさ』なんて、思ったことを、すぐ口にするストレートタイプ。


 それでも女にだけは優しい。ナンパ師って訳じゃないが、ナイトを気取る男なんだ。



「当たりめーだべ? 虎太郎に言われっと、馬鹿にされてるみたいだけどな」


「馬鹿にしてなんかいねーよ。頭は馬鹿だけどな」

 こうして龍次と虎太郎はじゃれあう。



 ホント、この二人は気の合うコンビだ。四六時中一緒にいて、いつも馬鹿な話に花を咲かせている。


 女たるあたしには判り得ない、男どうしの友情、って奴なんだろうな……



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