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98.

 今日もまた休憩を最低限にして黙々と歩き続け、盗賊たちとも大分離れた。王都にも確実に近づいているし、みんなに安堵の色が見えてきた時、騒ぎは起きた。


 静かだった森が突如として騒ぎ出した。風もないのに木々が揺れ、ざわめきがだんだんと大きくなっていく。

 ギャイギャイと、金切り声が木々の向こうから響いてくる。しかもあちこちから複数だ。


「なんだこの声は、魔物か?」

「いや……」

 魔物の気配はほとんどない。むしろこの騒ぎで小型の魔物たちは離れて行っている。そもそも、こんなにたくさんいるなら、囲まれる前に俺が気付く。


 商人たちが怯えた顔で身を寄せ合うが、恐いから歩く足も止まらない。たぶん誰かが逃げたらみんな走り出してしまうだろうが、今は恐くて散り散りになることも躊躇われる。

 そこへ、森の中へ偵察に行っていた冒険者たちが駆け戻ってきた。


「猿だ! みんな走れ!」


 森から飛び出てきた冒険者の後ろには確かに猿がいた。魔物ではないただの獣だ。でもチンパンジーくらいの大きさで牙もあるから油断できない。

 森の中にいたはずのルビィも、目にも止まらぬ速さで俺の服の中に避難する。ついでにピーパーティンも飛び込んできたが、おまえは空にいれば安全だろうが。


「報せろよ!」

「だって魔物じゃないもの?!」

「さっきまで木の実食ってただけだし!」


 役立たずの二匹を小声で叱りつけるが、服の中から情けない声が聞こえるだけだ。こいつらは本当に判断力も機転も利かないが、逃げるのと隠れるのだけは上手い。


「なんだあれは!?」

「見たことがないぞ!」

 猿は一匹出てきたら、次から次へと木の上から沸いて出る。進行を妨害するように前方から飛び掛かってくるから、馬も慄いて進めない。


「これは東の国にいる猿だ、国境での戦線が広がっているから、猿どもの生息地も変わったのだろう」

 護衛隊も馬車に飛び乗ろうとする猿を槍で追い払うが、すばしっこいから攻撃はなかなか当たらない。


 この国って、最近まで南の国と戦争してたんじゃなかったのか。今は東の国ともドンパチしているって、もしかしてかなりヤバい感じの軍事国家じゃなかろうか。


 そんなことを考えつつも、俺も荷物を護るので精一杯だ。猿たちは魔王の俺を恐れないというより、たぶん集団心理とでもいうのか、興奮状態で俺にも構わず攻撃してくる。

 魔物じゃないから、人間を食い殺そうとしているわけではなく、とにかく大声を出し暴れ回って威嚇しているみたいだ。これしきいっぺんに吹っ飛ばすのも容易いが、人間がたくさんいる中でそういうことはしたくない。


「足を止めるな! 縄張りに入ったから襲ってきたんだ、縄張りから出れば追ってはこない!」

 護衛隊の隊長はこの猿のことを知っているようだ。とにかく馬に飛び掛かろうとする猿を弾き飛ばして、馬を歩かせることに専念している。馬車さえ動いていれば、それを盾にして人間たちも進めるだろう。


 じりじりと歩みは遅くなってしまったが足は止めない。護衛や冒険者たちは、猿を倒すのではなく、馬車に取り付かれないようにだけ気を付けて追い払っている。仲間が死んで逆上されても困る。

 猿も縄張りを護りたいだけだから、それほどの攻撃はしてこないが、だからこそ一撃離脱のような鬱陶しい攻撃が続く。人食いじゃなくても、集団で殴られれば殺される危険もある。


 馬車に身を寄せるようにみんな庇い合っていたが、とうとう一人捕まってしまった。

「ひえぇ!? 助けてくれぇ!!」

 あの馬鹿商人だ。相変わらず荷物を捨てずに一番後ろをひいこら着いて来ていたから、ここでも後れを取ったようだ。三匹ほどの猿に取り付かれて膝を付いている。


 でも誰も振り向かない。商人たちは身を護るのに必死だし、護衛も冒険者も一団を護るだけで手一杯だ。歩けなくなったやつを助ける余裕なんてない。


 俺なら助けられるけど、助けない。助けてやる義理はない。見捨ててやる理由はある。身から出た錆ってやつだ。


 だけど、一人だけ振り返るやつがいた。

 隣にいたはずのリオが、身を翻して倒れた男の方へ駆けていく。


 猿たちを蹴散らして、ついでに邪魔な荷物を身代わりのように猿たちにぶん投げて、男を引っ張って戻ってきた。

 みんな後ろなんて見ている余裕はないから、誰も見ていなかったけれど、俺は真っ直ぐにただ人を助けるリオの姿を目撃した。


 あんなやつ助けて馬鹿じゃないかと思うが、まあリオだから当然だろうという気持ちもある。顔が主人公なら在り方も主人公になるのかもしれない。

 物語が物語なら、間違いなく勇者になる男だ。


 ほんの一瞬、眩しさに目が眩んだような気がしたが、目を細めてから、なんで俺が勇者未満ごときを眩しく思わなきゃならんのだと、顔を顰める。


 それはともかく、みんなの踏ん張りで今のところ脱落者もなく、猿の攻撃もだんだんと止んできている。もうすぐで縄張りを抜けるのだろう。


 しかし、ここで俺は面倒臭い気配を察知してしまった。

 思わず舌打ちを零した。顰めっ面を更にひん曲げる。


 俺は別にヒーローになる気はないし、人間を助けてやる義理もあんまりないけれど、ここまで来て台無しにされるのも気分が悪い。

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