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96.

 キャラバンの旅は順調に進み、二つ目の関所を越え、あと二日も歩けば王都が見えてくるところまで辿り着いた。

 残り一泊は野宿をして王都に入る予定だったが、最後の村を出てすぐに、そこらを飛び回るだけだったピーパーティンがようやく仕事らしい仕事をした。


「この先の橋の近くに人間がいっぱいいるっす、武器持ってるからたぶん盗賊っす」

 散歩ではなく偵察から戻ってきたピーパーティンが、俺の肩にとまって小声で伝えてきた。


「人数は?」

「五十くらいはいたっす」

 盗賊団とすると結構な大所帯だが、いくつかのグループが結託している可能性もある。

 こちらの戦闘員は総勢で四十くらい。戦うだけなら勝てなくもないだろうが、キャラバンには非戦闘員と荷物もあるから、守りながら戦うには不利な人数だ。


「この先に橋ある?」

 俺は傍にいたダンに声をかけた。俺は地図を持っていないから詳細な地形がわからない。

「あるぞ、昼には着くから、そこで一度休憩だな」

 ダンも地図はあっても時計なんかは持っていないから、移動速度や時間は感覚でしかわからない。


 昼くらいに着くというなら、あと十キロ以上は先だろうか。周囲の気配を探ってみても、人間はこのキャラバンの護衛しかいないようだから、盗賊団に偵察されている可能性はないだろう。


「その橋の近くに盗賊がいる、ピーパーティンが見てきた」

「何だって、そんな遠くまで飛んでるのか」

 ダンは直ちに一番デカい馬車まで報せに走った。そこにアボット商会の倅も乗っている。


 キャラバンはすぐさま歩みを止めて、周囲に散っていた冒険者たちも、数人の見張りを残して全員呼び集められた。

 俺はダンに呼ばれてデカい馬車の方へ行く。そこにはキャラバンの代表者と番頭と護衛隊長、それに冒険者代表として“黒豹”のリーダーと、数人の年配商人がいた。俺は第一発見者だから、ダンは俺の保護者的な立場だからここにいる。


「盗賊を発見したというのはおまえの鳥か、間違いないのだな」

 護衛隊の隊長が俺を睨んでくる。俺が子供だから侮っているわけではなく、動物の偵察などあまり信用ならないせいだろう。こいつらはピーパーティンとルビィが魔物だということも知らないのだから。


「間違いない」

「数は?」

「五十はいる、橋の手前の、こっちとこっちに分かれて潜んでるって」

 広げられていた地図を指さして説明する。全員が呼び戻される間にルビィにも見に行かせた。盗賊たちは街道の右側と、少し進んだ先の左側に潜んでいたという。


 動物に偵察させたにしては、いやに詳細な説明になったが、大所帯を狙う盗賊の配置としては打倒と判断したのか、半信半疑だった護衛隊長も表情を切り替えた。


「多いな、明らかに狙いは私達だ」

「はい、今日ここを通る馬車で我々より大きなキャラバンはありません」

「きっと前後から挟み撃ちにして、荷物を強奪した後は船で逃げるつもりでしょうな」


 場所と人数を伝えただけで、護衛隊と冒険者たちは盗賊の作戦がだいたいわかったらしい。代表者のオッサンも、流石はキャラバンを任されるだけあって盗賊慣れしている。

 盗賊たちは、こちらの護衛の人数と荷物の量をわかった上で人手を集めている。つまりは念入りに計画して、荷物を強奪する自信もあるし、逃げ切る算段も付いているということだ。


「旧道を通りましょう、王都へ着くのは一日遅れますが、途中に川もありますし、食料もなんとか保つでしょう」

 番頭が算盤を弾きながら地図を指さす。


 地図には今いる街道と、その横に細く旧道が描かれているだけだが、ここより少し先に旧道へ抜ける裏道があるという。こういう時のために決めておいた逃げ道だそうだ。

 そこを通れば、盗賊の横をすり抜けて王都に辿り着けるだろう。新道よりも川の上流の方だから、盗賊たちが本当に船を用意していたとしても追いつくのは難しい。


 確かに、旧道は王都の東に繋がるから、当初の北門へ行くよりも大回りになってしまう。

 しかし、それでも一日だ。川があれば水の心配もないから、食料さえ節約すれば何とかなるだろう。最悪一日くらい食わなくても死にはしない。


「しかし、旧道か……魔物の方は大丈夫か?」

 冒険者の方から声が上がった。旧道は人間の通行量が少ないから魔物の出没は増える。裏道ともなれば更に、道自体が魔物の縄張りになっている可能性もある。


 まあ、俺は既にピーパーティンとルビィに探らせて、ヤバそうな魔物がいないことは知っている。教えてやってもいいが、雑魚二匹の判断もあまり信用ならない。ヤバいの基準が俺だからな。俺もイマイチ人間のレベルは把握しきれていないし、人間でどうにもできないレベルの魔物がいないとは言い切れない。


 俺が悩んでいる間に、護衛隊の隊長は腹を決めたらしい。

「魔物や獣は増えるだろうが、王都の近くにはそれほど大型の魔物はいない」

 これで道を変えることが決まった。


 すぐに他の商人や冒険者にも変更が伝えられる。到着が遅れても安全な道を行くことで全会一致、と思われたが一人だけ反対するやつがいた。


「到着が遅れるだと?! 馬鹿言うな、そのガキが嘘ついてんじゃねーのか」

 声を上げたのは、あの量を誤魔化して荷物を載せていた馬鹿商人だ。

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