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93.

「ギルの猫ちゃんと小鳥ちゃんは?」

「そこら辺にいる」


 ピーパーティンは空を飛んでいるし緑色だから、空を見上げればすぐに見つかる。ルビィは目視では確認できないが、キャラバンから付かず離れず着いて来ていることはわかっている。


「迷子にならないの?」

「ならない、疲れたらテキトウに戻ってくる」

「へー賢いんだね」


 そんな会話をしながら旅路は今のところ平和だった。たまに森の向こうで獣の声が聞こえるが、キャラバンにぶつかる前に護衛が処理しているのだろう。平和だ。


 キャラバンは順調に進み、三日後には予定通り街道沿いの村に着いた。

 小さいけど列記とした王都までの宿場だから、ボロいながらも宿を営む家が三軒ある。二軒を貸し切り状態にすれば全員が一晩屋根の下で眠ることが可能だ。


 アボット商会が予め村に話を通していたから、宿屋の受け入れ態勢もできていた。

 ただ、流石に数十人と入れるような食堂がないので、冒険者や相乗りの商人たちは外で火を焚いて、各自で飯を作っている。安い宿屋は端から飯は持ち込みを旨としているから、宿屋の隣にキャンプ場みたいな炊事場がある。

 商会の連中や大手の商人だけは宿の食堂で飯を食ているが文句は出ない。寝床に屋根があるだけ野宿よりマシだ。


 もう夕日も沈んだ頃だが、村の中心の広場では、あちこちで焚火をしたりランプを点けたりしているから結構明るい。一番明るいのは宿屋の窓から漏れる灯りだが、外は夜更けでも賑やかだった。

 村の周りには魔物除けの結界が張られているから、外だけど久しぶりに周囲を警戒せずに食事がとれる。騒ぎこそしないけれど、みんな表情は明るい。


 ピーパーティンとルビィは、村に入ってからずっと俺にくっ付いている。

 二匹とも弱っちいから、これしきの結界でも入れないと泣き言をほざいたが、夜までどっか行っていたらペットとして怪しまれるから、無理くり連れてきたら服の中から出て来なくなった。

 邪魔くさいけど、別にいつものことだから構わない。ただ、ミラがしきりと可愛い可愛いと騒ぐのが鬱陶しい。


「順調だな」

 ダンが鍋をかき混ぜながら言う。意外にも、というのも失礼だが、“黄金の斧”で一番の料理上手はダンだった。


 持ってきている食材なんて麦と調味料だけで、あとは道中で獣を狩ったり食べられる草を集めるのだが、それで美味い麦粥ができたりする。そこらの草を立派なスパイスにするのだから、ダンには料理人の才能があると思う。


「でもまだ半分も来ていない、この先魔物がたくさん出たら……」

「出てくれば倒せばいいんだよ、今まで通りだよ」

 ニコルは不安げに縮こまっている。パーティーの中では一番大きいのに、よくもこれだけ身体をコンパクトに出来るもんだ。隣に座るミラの方が大きく見えるほどだ。


 二人も料理はできるが別に美味くも不味くもないそうだ。一番料理ができないのは、今は席を外しているセイラだ。あれは料理じゃない、と仲間たちは眉を潜めて言う。腹を壊さなければよいというレベルで、獲ってきた獣をそのまま火にぶち込むようなことをするらしい。


「だんだん魔物の種類も変わってきてるし、あんなに角の大きな鹿は初めて見たな」

 リオと俺も“黄金の斧”と一緒に飯を食う。今は俺も臨時のパーティーメンバーということになっているからな。

 オリバーは他の商人と相談することがあるというから、宿屋の食堂の方に行っている。飯が完成したころには戻ってくるだろう。


「ああ、あれは立派だったな、勿体ないことをした」

「角だけでも獲れたんだから上出来じゃん」


 ここまでで遭遇した魔物で、一番大きいのは鹿の魔物だった。一見すれば前世で言うところのヘラジカだが、武器を持った人間にも臆せず襲い掛かってきたから魔物だ。

 リオがいたから難なく倒せたが、身体を全部持ち運ぶことはできないから立派な角だけ取ってきた。

 だから、俺の背負う荷物には今、デカい角が二本刺さっている。暇を見てオリバーが手を加えるそうだ。


 魔の森から離れてくると、生息する魔物も変わってくるらしい。

 魔の森の近くでは熊とか狼、もしくは虫型など、明らかに肉食っぽい魔物が多いが、王都に近付くにつれて草食っぽい魔物が増えるそうだ。魔物だから見た目が草食でも人間を食うけれど、魔の森から離れると攻撃性も薄れるそうで、だんだんと魔物とただの獣の境界が曖昧になるという。


 魔界には生き物を狂暴化させる力でもあるのだろうか? それとも、王都の方に魔物を鎮静化させる力があるのだろうか? 今のところハッキリとした空気の違いなどは感じられない。

 しかし、魔物が減ると、今度は盗賊などの犯罪者が増えていくから、警戒する相手がまた変わってくる。


 そこへ馬車の方へ手伝いに行っていたセイラが戻ってきた。商会の馬車の一つが車輪に不具合が出ていたそうだ。


「ただの荷物の積み過ぎだよ、申告よりも多く荷物を積んだ馬鹿がいたそうだ」

 セイラは荒っぽく焚火の傍に腰を下ろした。服が少し濡れているのは、車輪の修理で汚れたから洗ってきたという。

 彼女は大工の娘だから馬車の修理などもできる。魔法使いだが魔法でちょちょいと直すなんてできない。普通にトンカチやノコギリでごりごり直すのだ。


「明日の出発には支障ないのか?」

 リーダーの懸念は旅程だ。王都への到着が遅れるなら、食料の追加を考えておかないといけない。


「ああ、車輪はしっかり直った、荷物は少し降ろさないといけないけど」

 セイラは心配ないという。既にカトラリーを両手に持って夕飯の準備も万端だ。まだ飯は出来上がっていないけど、食い専の自覚があるらしい。


「降ろしてどうするんだ」

「さあな、中身はクズ魔石だって言うから、この村では売れないだろうな、他に人を雇って運ぶか、採算が取れないなら捨ててくんじゃないか」


 クズ魔石とは大きな魔石を加工して出たクズだったり、鼠型や虫型などの小さい魔物から取れる小さい魔石のことだ。クズと呼ばれる通り一つでは使い道はないが、たくさんあれば魔道具の燃料として売れるそうだ。

 王都は大型魔道具が多いからクズ魔石の需要も高いけど、田舎の村には魔道具なんてないからゴミでしかない。王都でも高価なものではないから、人を雇ってまで運んでも採算が取れないかもしれない。

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