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92.

 キャラバン護衛のリーダーと“黒豹”のリーダーは、今日までに打ち合わせを済ませているから、今は最終確認だけだ。他の冒険者たちもまとめて挨拶するだけで終了、人数が多いから依頼主のオッサンも全員に声をかけることはない。


 ただ、オッサンの右腕である番頭の爺さんは、一人一人に契約内容をきっちり確認していた。

 俺にはピーパーティンとルビィの餌代まで訊ねられて、ちょっと戸惑った。そこらへんで勝手に狩るからいいって言っちゃったけど、餌代まで色付けて請求しとけばよかった。


 それから、まだまだ顔合わせは続く。人数が多いが、誰が仲間かわかっていないと護衛もできないからな。

 キャラバンを率いる大店の従業員のみなさんに、他の町や村から仲間入りした商人や下働きのみなさんに、今日この町から仲間入りする商人のみなさん、もう名前は覚えられないから顔だけは大雑把に覚えておく。


 最後に、今日から俺の直属の上司ということになる、ダンの父親オリバーさんの元へ戻ってこれた。

 親子そろってずんぐりむっくりした四角い顔だが、息子のダンより愛想がある。魔物の骨や牙の加工品を売る商人であり、本人も細工職人だという。


「よく来たなギルくん、今日から頼むよ」

「うん、よろしく」

 商人の下働きとしての俺の仕事は、主に荷物持ちだ。


 相乗り商人たちは、大店の馬車に乗せてもらうやつもいるが基本は徒歩、何故なら馬車に乗るにも金がかかるからだ。

 帰り道だから馬車はいっぱいいっぱいまで荷物を積んでいる。そこの僅かな隙間に乗せてもらうから、使用面積と重さで細かく料金が決められている。だから、大抵は商品だけ馬車に乗せてもらって本人は歩いて付いて行く。


 オリバーも、商品だけは一番頑丈そうな馬車に乗せてもらっている。一応壊れ物だからな。木箱が四つくらいだが、人間では背負って王都まで歩くのは無理な量だ。

 それと更にオリバーは背負子にも商品を満載しているから、寝袋だとかの旅荷物を俺が背負うことになる。


「これくらいだが、背負えるか?」

「平気だ」

 二人分の旅荷物だから、俺の身長と同じくらいのリュックサックを背負うことになる。オリバーは少し不安そうだが、この国では子供も立派な労働力だから、小さいからって荷物を減らしてくれることはない。仕事ができないならクビになるだけだ。


 実際は余裕も余裕だが黙っておく。俺なら荷物を全部背負って秒で王都まで辿り着けるけど、送料はキャラバン馬車の百倍は要求する。魔王らしく人命払いでもいい。魔王運送は高いのだ。

 それに、俺は人間社会の勉強に来ているのだから、力に頼ってばかりじゃダメだ。ちょっと人界を覗くだけでいいなら、千里眼の魔法とかを駆使して見物すれば済んだからな。


「みな準備は整ったな、出発するぞ!」


 キャラバン代表者のオッサンが全員に声をかけると、町の大門が開かれた。

 天気は曇り、だが雨は降っていないまあまあの旅立ち日和だ。


 ただ単に国内を移動するだけだが、自動車も列車もないこの世界じゃ他所の街に行くのは大旅行だ。門の近くには見送りの人たちが集まっていて、中には泣いて別れを惜しんでるやつらもいる。

 俺は別に手を振る相手もいないから、ぞろぞろ動き出したキャラバンについて歩くだけだ。

 隣を見ればリオも別れの寂しさなど無く、むしろ新たな旅路にワックワクの表情で前を見ている。やっぱりこいつは主人公だと思う。




 華々しい門出があったからって何があるわけでもなく、キャラバンは森の中をただ歩くだけだ。

 速さは俺の足だとちょっと小走りくらいだ。馬車も荷物を満載しているから、馬を早く走らせることはできない。


 俺は荷物を背負って歩くだけが仕事だ。リオ含む“黄金の斧”は、道から外れたところで周囲の警戒に当たっている。

 でも、順番に一人は俺たちの傍にいる。連絡係兼オリバーの護衛だ。俺は見た目はガキなので戦力に数えられていない。


 それでも一応は俺も護衛任務を兼ねているから、ピーパーティンとルビィを自由にさせて周囲を監視させている。何か見つければ戻ってくると他の人間には言ってあるが、俺とだけはテレパシーみたいな会話ができるから、戻ってこなくても子分どもの様子はわかる。


「このペースなら最初の関に予定より早く付くかもね」

 今は傍にミラがいた。俺と同じくらいの背丈だから彼女も小走りだが、弾むように歩きながら難なく地図を読んでいる。


 小柄なミラは、斥候という職業の通り足が速くて木登りも得意だ。戦いに不向きそうな外見に反してナイフでの戦闘が得意だし、地図作りも得意だし、一通りのサバイバルができる熟練冒険者だ。

 二晩は野宿で三日目に関所を通って、宿場町に泊まる予定だ。宿場町と言っても宿屋が三軒あるだけの村だそうだが。ミラはそこまでの距離と到着時間を計算しながら、装備品の消耗具合も考えているらしい。


 俺も地図はちらりと見せてもらったが、国全体の地図ではなく、エジン村らへんから王都までの地図で、国土の四分の一も描かれていないらしい。

 地図の端っこのもじゃもじゃ黒く塗りつぶされているところが魔の森で、つまりは何もわからない場所となっている。


「最初からそう考え込むな、旅は予想外なことが起こるもの、この先は緩やかな上り坂が増えるから進みも遅くなるだろう」

 テキパキと計画的に考えるミラに、オリバーはのんびりと声をかける。初老に差し掛かったこのオッサンは、何度も王都まで行ったことがあるらしい。考えてもしょうがないという言葉も経験者が言えば重さが違う。


 ミラも予定の確認ばかりするのは止めたのか地図をしまう。計画ばかり考えていたら、予定通りにいかないとストレスになったりするし、旅は臨機応変にのんびりするのが良いのだろう。

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