表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/97

91.

 隣の町に行くと、いつもよりも市場に人が多いような気がした。

 一昨日から例のキャラバンが町に到着していたそうで、この町では軽く補給をするだけですぐに発つというのに、大人数のキャラバンを目当てに行商人が集まっているようだ。


 俺とリオはまず冒険者ギルドに向かって、一緒に護衛をする冒険者たちと合流する。

 今回はこの町からも三つのパーティーが護衛に参加する。

 その中で“黄金の斧”というパーティーにリオは臨時で加わる。俺は更にパーティーの雑用係で、ついでに“黄金の斧”のリーダーの父親も商人としてキャラバンに相乗りするので、俺はその下働きということにもなっている。


 “黄金の斧”はメンバー四人ともこの町の出身で、幼馴染だという。リーダーのダンが斧を持ったアタッカー、それと槍使いのニコルと斥候のミラと魔法使いのセイラだ。

 リオは今までにも何度か“黄金の斧”と一緒に依頼を熟したことがあるそうで、今回も気軽に仲間に入れてもらえたし、俺までまとめて仲間に入れた。

 リオはいくら地元でそこそこ有名な実力者だとしても、やはり若者一人では、キャラバンの護衛依頼は受けられなかったのだ。


「よう、来たな」

 リーダーのダンが手を振って声をかけてきた。ずんぐりむっくりした四角い顔の男で、一見堅物そうに見えるが気さくで面倒見の良い性格だそうだ。


「おはようございます! よろしくお願いします!」

「よろしく」

「よろしくー! わー猫ちゃんも小鳥ちゃんもよろしくね」


 俺たちが近付くと小さい女性が俺に、正確には俺の肩に乗ったルビィとピーパーティンに駆け寄ってきた。

 斥候のミラだ。身長は俺と同じくらいしかないが、二十歳を超えた立派な成人女性だ。人間と小人族の混血だという。


「もふもふ目当てかよ」

 ミラは小動物が大好きだという。農家をやっている実家でも猫や犬をたくさん飼っていたそうだ。

 俺の肩から剥ぎ取られた二匹は、ピーパーティンはちやほやされて満更でもない顔をしている。鼻の下が伸びて可愛い小鳥の顔が台無しだ。ルビィは餌にならない女に興味がないようだが、ツンとした表情が逆に猫らしくてミラにウケている。


「そりゃあおまえはオマケだからな、もしかするとペットの方が役に立つかもしれないし」

「リオがいてくれたら安心だ、俺の出番が少なくて済む」

 俺の頭を気安くワシワシしてくるのは魔法使いのセイラだ。その横で長い身体を丸めるような猫背の男が、槍使いのニコルだ。


 セイラは気の強そうな女性で、実際気が強くて喧嘩っ早いらしい。魔法使いのくせに革鎧を着て剣を持っているが、使える魔法は攻撃系ではなく防御魔法と治癒魔法だ。特性と気質がまるで合っていない回復役だ。

 ニコルはひょろひょろと背が高いばかりで気が弱い。年下のリオの背中に隠れることも躊躇わないのに先鋒だ。槍を武器に選んだのは、魔物が恐くて離れて戦えるようにだとか。

 なんでそんな性格で冒険者なんかやっているかというと、両親も兄弟も冒険者だから、他の職業がわからないそうだ。


「これで全員揃ったな、キャラバンの長に挨拶に行くぞ」

 護衛依頼を受けた冒険者たちのリーダーっぽいのが声を上げる。B級パーティー“黒豹”のリーダーだったか。今回の護衛任務で唯一のAランク冒険者だ。


 今回のように複数のパーティーが合同で依頼を受けた場合、暗黙の了承として一番ランクが高いやつがリーダーになるらしい。特に今回はAランク冒険者は一人だし、年齢も冒険者歴もみんな似たり寄ったりだから、これと言った軋轢も起きない。

 それに、これからキャラバンに元からいる護衛とも顔合わせするから、冒険者のリーダーだからってデカい面ができるわけではない。


 ちなみに、パーティーの等級はだいたいメンバーのランクの平均で決まる。“黄金の斧”は、リーダーのダンと斥候のミラがBランク、魔法使いのセイラがCランクで槍使いのニコルがDランクだから、パーティーとしてはC級だ。


 ぞろぞろ歩いて行けば、町の一番大きな門の前に既にいくつもの馬車が並んでいた。この門の先が王都へと続く街道だ。

 一番大きくて頑丈そうな馬車の近くに今回の依頼主がいた。

 このキャラバンの代表であり、王都でも指折りの大店アボット商会の会長の息子だ。恰幅の良い禿げたオッサンだが、親がまだまだ現役だから、オッサンなのに若旦那と呼ばれているちょっと可哀想な次期会長だ。


 依頼主は田舎の冒険者たちにも笑顔で対応した。流石は大店の息子、イメージが悪くなることは絶対にしない。

「いやー、魔の森で鍛え上げられた冒険者たちがいれば心強いな!」

 調子よくガハハと笑っているが、オッサンの言う通り、この町を拠点にしている冒険者はそこそこレベルが高いらしい。


 冒険者のランク付けは、一応、全国一律のランク付けマニュアル的なものがあるそうだが、結局は各地の冒険者ギルドに裁量が任されている。だから、自然とその地域の平均を基準としてランクが決まってくる。

 ここら辺は魔の森の近くで魔物がゴロゴロいる地域だから、冒険者たちの平均レベルが高いそうだ。勿論、死傷率も他の地域より高いのだが、王都の方の冒険者ギルドへ行けばランクが一つか二つ上がるとも言われている。


 冒険者はランクによって受けられる依頼も報酬額も決まるのに、ランク付けの基準に地域差があったらダメだろうと思うが、これも魔の森が近いおかげで、魔物素材などの副収入が多いため特に文句は上がらないそうだ。


 俺は他の地域のことは知らないが、王都に近付けば近づくほど魔物は少なくなり、冒険者が相手にするのは盗賊などの人間ばかりになるというから、そりゃあ毎日のように大型の魔物を相手にしている連中とは比べるべくもないだろう。


 そして、実質のレベルは高くても依頼料はランクで決まるから、大店のオッサンは実力のある護衛をお手頃価格で雇える。この町まで来て改めて護衛を雇ったのはそのためだ。流石は商人ちゃっかりしている。

 でも、冒険者が割を食っているわけでもない。魔の森近くの魔物討伐などの任務と比べれば、王都への護衛任務は安全な部類に入る。それに俺やリオだけじゃなく、他の冒険者も王都に用があるやつらばかりだから、町の商人と同じように、冒険者たちもキャラバンの相乗り気分で依頼を受けているのだ。


 だから、まあまあの長旅になるが、キャラバンは結構和気あいあいとした雰囲気だ。

 元からいる商会お抱えの護衛たちも、冒険者を下に見ることはないし、相乗りする商人たちも旅をなるべく快適にするために気を遣い合っている。

少しでも面白いと思ったら是非ブックマークお願いします。

リアクションや★付けていただけると嬉しいです。

感想やレビューも待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ