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90.

 俺はリオの知り合いの冒険者と、キャラバンに相乗りするという商人と話して、ピーパーティンとルビィが斥候として使えるとか、鑑定魔法が使えるとか、足が速いとか力持ちだとか、色々売り込んで仲間に入れてもらえた。


 俺の実力を教えるわけにはいかないし、まあ、話したところで信じてももらえないだろうから、俺は自称テイマーの魔法使い見習いで護衛兼雑用係ということになった。よくこんな意味のわからんガキが仲間に入れてもらえたもんだ。


 その後は、狩りをして王都での生活費を増やしたり、世話になった礼に村のあちこちで手伝いをしたりして忙しく過ぎた。


 図書館に忍び込む暇はなかったが、アンに貰った教科書で読み書きはだいたいできるようになった。


 驚いたことに、この国の文字はほぼ英語だった。文字の形が少し違うだけで前世で覚えたアルファベットと一致するし、文法もほとんど英語と同じだった。前世では英語はそんなに得意じゃなかったが、復習すれば読み書きくらいはなんとかなる。

 世界が違っても人間の脳味噌は同じということなのだろうか。魔王でも世界の成り立ちまではよくわからない。前世と今世の類似性にちょっと頭が混乱するが、知っている言語だったのは有難いから深く考えないことにした。


 勉強と旅費造りに奔走していれば、あっという間に村を旅立つ日がやって来た。

 俺は準備らしい準備はない。村に来た時と変わらない服装で、持ち物はリュック一つだけだ。リオの家族があれこれ持たせてくれようとしたが、今日の分の弁当だけ受け取っておいた。


 リオも荷物はリュック一つだけだが、驚くのは荷物の少なさではない。


 この身体を洗うという習慣のないド田舎でも、お別れの日は身綺麗にして挨拶するという礼儀はあるそうだ。

 旅立ちの日のリオは母ちゃんの仕立てた真新しい服、と言っても古着を縫い合わせたものだが、今まで着ていた継ぎ接ぎだらけの服よりは上等な服を着て、伸び放題だった髪も切って、身体も川で洗っていた。


 そうすると、リオはなんとイケメンだった。


 くすんだ栗色だと思っていた髪はサラサラの金髪だったし、肌は白く、瞳は透き通るような青色だし、きりっとした眉に爽やかな目元に優し気な口元、この世界の美意識はまだわからないけれど、たぶん絶対にモテる顔だ。


 別に妬んではいない。ただ、小汚い田舎のガキしか知らなかったから、なんだか詐欺にあった気分だ。

 それと、あの茶色い髪と茶色い肌が全て垢だったことにゾッとした。どんだけ汚かったんだこいつ。


 俺は人間の美醜に興味はないけれど、強くて優しい上にイケメンとか、これが物語ならこいつは間違いなく主人公だ。俺は魔王だから間違いなくラスボスだ。


「どうかした?」

 眉間に皺を寄せてリオを見ていたら、不思議そうに首を傾げられた。それだけでサララと煌めきの効果が付きそうだ。


「変わり過ぎだろ」

 俺が眉間に皺を寄せたまま言えば、リオは困ったように頬を掻いた。何をしても絵になる顔に思わず一歩引いてしまう。


「うん、こんなに綺麗にしたの生まれて初めてかも」

「汚ねえな」

「ギルは本当に身体洗わなくてよかったの?」


 リオは身体を洗うために、河原で火を焚いてお湯も沸かしていた。一人で使うのは勿体ないから、兄弟もついでに身体を洗っていたが、俺は面倒だったから断った。いつもこっそり魔法で綺麗にしているから問題ないのだ。


「俺はいつも綺麗だ」

「そうだね」

 その顔で素直に頷くな。なんにも考えずに頷いただけだろうが、こいつ絶対に王都に行ったら女を泣かせる男になる。


 キャラバンと合流するために隣の町まで行くが、今日は徒歩だ。町に用があるのは俺たち二人だけだし、村長は馬車を出してやると言ってくれたが、正直俺たちは歩いた方が早いのだ。


 リオは家族と今生の別れというわけではない。そのうちアンを呼び寄せるとも言っていたし、たまには里帰りもするだろう。それでも、村から王都へ行くのはそう簡単な話しではない。

 壮行会は昨日のうちに済ませていたが、見送りには村人がほとんど出てきた。

 みんな親戚みたいな村だ。若者が一人王都へ旅立つのは、全員にとって息子を見送るようなものだろう。


 涙涙の村人たちに囲まれているリオの横で、俺は村のもんじゃないので別れを惜しむこともない。王都でしっかりやれよと激励の言葉をたまにもらうだけだ。


「ギルちゃん、身体に気を付けるんだよ」

「悪いやつに騙されないようにね」

「息子に言ってやれよ」


 一番一緒にいた時間の多いリオの家族が、相変わらず心配そうに俺を見ている。

「リオにはもう散々言ってやったさ」

「いつでも帰ってきていいからな」


 帰るってなんだ。俺の故郷は魔界だ。


 でも、世話になったのは確かだから、心配ぐらいは受けとってやろう。俺は空気の読める魔王だからな。


「気が向いたらな」

 せっかく応えてやったのに、リオの家族は「しょうがない子だね~」という顔で笑っている。ものすごく解せない。


 そうして俺とリオ、あと鳥一匹と猫一匹は、村人たちに見送られて旅だったのだった。まあ、俺たちが走れば村なんてすぐに見えなくなるけど。

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