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89.

 家に帰るとリオは早速王都行きの件を家族に話した。

 俺が予想したよりも、リオの家族はすんなりと王都行きを認めてくれた。むしろリオよりも俺の方が心配されている。


「ギルちゃん本当に大丈夫? 王都は人がいっぱいいて、悪いやつもたくさんいるんだよ」

「じゃあリオの心配しろよ」

「貴族なんかが田舎者を苛めるって聞くし、昔の身分制度の名残で狩人は下賤だなんて言われるそうよ」

「だからリオの心配しろって」


 なんで俺ばっかり心配されるんだ。家族でもないただの居候なのに、リオの祖母ちゃんも母ちゃんも実の息子のことそっちのけでいいのか。


「リオは……まあ王都でもやっていけるでしょう」

「馬鹿にされたって気にしなさそうだし、喧嘩では負けないでしょうし」

 違った。息子は信頼してて俺が信頼されてなかっただけだった。


 しかし、貴族相手なら喧嘩をするなと注意するべきじゃないのか。そりゃあ、リオなら大抵の人間には勝ちそうだが、まずは喧嘩することを前提に考えるな。


「リオが家を出ていいのか、労働力減るぞ」

 俺の言葉にリオの両親も祖父母も顔を見合わせたから、みんなもそれは考えていたのだろう。


「しかし、リオは十五歳だ、もう立派な大人だからな、自分の道は自分で決めるべきだ」

「リオの力はきっと王都でも役に立てるだろう」

 リオの祖父ちゃんと父ちゃんは腕を組んで頷いた。

 やっぱりこいつらも、リオの才能を村で燻ぶらせておくのは勿体ないと思っていたらしい。労働力が減るのは困るが、息子の自主性を重んじる良き親ではある。


「しかしギルちゃんはまだ十二か十三なんだろう、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかい」

「王都には子供を食い物にする魔物もいるって言うよ、リオが一緒でも心配だよ」

 リオの話しがアッサリ終わって、また俺の方に矛先が向かった。母ちゃんの言ってるのは絶対魔物じゃなくて、ヤクザな人間のことだ。田舎者の都会へのイメージが悪過ぎる。


「別にうちにいつまでいたっていいんだぞ」

「ああ、俺が狩りのしかたをもっと教えてやるし、畑だって工芸だって教えてやる」

 心底心配そうな女どもに、父と祖父まで加勢してきた。そんなに労働力が欲しいならリオを引き止めろ、と言いたいが、男どもの表情も労働力欲しさというより、子供を王都にやるのが心配という雰囲気だ。


 子ども扱いにつけ込んで、あれこれと教えろ教えろと言っていたのが仇になったか。トニーやジムは親に教わるのが煩わしい年頃みたいだし、子供に構ってほしい大人どもに俺が甘え過ぎてしまったのかもしれない。


「俺はもう大人だから王都に行くんだ!」

 俺はお節介な人間どもを怒鳴りつけて子供部屋に引っ込んだ。引っ込む先が子供部屋なのが大変不本意だが、立派な大人だというリオだって、家での寝床は子供部屋なのだ。


「おまえも、俺に一緒に来てほしいなら家族説得しろよ」

 ちゃっかり先に部屋に引っ込んでたリオを睨むが、特に気にした様子もなく微笑むだけだ。


「みんな無理矢理引き止めたりはしないよ」

 それは俺もわかる。この家の大人は放任主義だ。育児放棄ではなく、死なない限りは子供は自由にさせておく教育方針らしい。


 そんな教育方針だからこそ、俺だけがこんなに心配されるということは、俺は放っておけないほど弱っちいと思われているということだ。リオと一緒に狩りもして見せたというのに、解せぬ。


「鬱陶しいだろ」

「心配なのは心配なんだろうね、でも母さんもお祖母ちゃんも、リオが一人でやっていけるってことはわかってるよ」

 リオがなんでもないように笑う。その笑みは母よりも祖母ちゃんに似ている。家族の気持ちは理解しているという。じゃあ家族として無駄な心配はするなと言ってくれ。


「何であんな子ども扱いすんだよ、俺ばっかり」

 ハッキリ言って、一番末っ子のメイよりも子ども扱いされている気がする。


「一人にしたくないんじゃないかな」

「は?」


 一人でやっていけるっていうのに、なんで一人にしたくないんだ意味がわからん。

 それに、俺は実際一人じゃない。魔界に帰れば仲間はわんさかいる。まあ、ここでは言えないけど。


「一人じゃねーし、ピーパーティンとルビィがいる」

「そうだね」


 リオは意味のわからない返答しかしない。

 夜はまた子供部屋で雑魚寝だが、いつもよりガキどもがべったりくっ付いてきて鬱陶しい。何故か末っ子のメイまで一緒に寝ているから、狭くて仕方がない。


 家族全員鬱陶しいやつらだ。




 翌日には村長にも王都行きを話しに行った。

 俺の場合は別に村人じゃないから、数日後に村を出るという挨拶だけだ。リオの方も別に成人してるのだから好きにしろと、相変わらず素っ気ないジジイだ。


 リオは予想通り村人から労働力として惜しまれたが、村長の「ガキに頼り切りになってんじゃない」という一括で、王都行きを反対するやつはいなくなった。

 リオは成人してるから自由にしろと言ったり、ガキに頼るなと言ったり、色々とめちゃくちゃだけど、爺さんになったら成人していようがガキはいつまでもガキなのだろう。


 それから三日後にまた町に買い物に行き、リオは冒険者ギルドでキャラバンの護衛の任務を受けた。

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