表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/97

84.

 オーナー夫婦の議論は終わりそうもないから、俺たちはそそくさと作業場を後にした。あの夫婦は毎日あんな感じらしいから他の職人たちも慣れた様子だった。


 それから、最初に行った肉屋で金を受け取り、一番査定に時間がかかりそうだった冒険者ギルドに戻った。


「査定終わってるわよ、今から用意するから待っててね」

 受付のお姉さんはジャラジャラと天秤に硬貨を乗せ始めた。大雑把なやり方だが、冒険者ギルドでは金を扱うことも多いから一枚ずつ数えていられないのだろう。

 受付のカウンターはオープンだし、女一人で金を扱って大丈夫なのかと思ったが、よく見れば結界が張ってあった。目立たないようにしてあるが、カウンターの中は強化ガラス張りという状態だ。


 精算には金貨も結構な数含まれている。結界の向こう側だが鑑定魔法は使えそうだ。

 でも、そう言えばまだ金貨をよく見たことがなかったことを思い出す。


「リオ、金貨見せてくれ」

「いいけど、ギルも金貨一枚あっただろ」

「一枚じゃわからん」

「金貨見たことなかった?」

「あんまり」


 リオは金貨の入った袋を開けて中を見せてくれた。警戒心の薄いリオも、流石に硬貨の入った袋をほいほい渡してくれない。

 これは俺を警戒しているというより、周りの冒険者を警戒しているようだ。こんな中途半端な時間にギルドで屯している輩は、大した実力もなく金もないやつらばかりなのだろう。


 流石、あれだけの毛皮を持ち込めば金貨十枚にもなるらしい。やっぱり純金ではないが三分の一くらいは金の成分が含まれている。


 この鑑定結果を踏まえて、受付のお姉さんが天秤に載せている金貨を見てみる。どれもだいたい同じ成分だが、一つだけ明らかに鑑定結果の違うものが混ざっていた。

 あれはそこらの石っころと同じ成分だ。

「石が混ざってる」


「え?」

「それ金貨じゃない」

 俺は指をさしてみたが、皿の上にはいくつも金貨が乗っているからどれかわからない。お姉さんは怪訝そうな顔で金貨の乗った皿を俺に近付けて見せてくれた。


「これ、あとそっちの銀貨にも違うのがある」

「ええ!? ちょ、ちょっと待っててくれる」

 お姉さんは慌てて硬貨を全部持って奥に引っ込んでしまった。素材を査定するために鑑定士が奥にいるらしい。


 どれくらいかかるからわからないから、俺とリオは空いている椅子に座って待つことにした。


「おまえさん、鑑定魔法を使えるのか?」

 近くに座っていた爺さんが声をかけてきた。一応冒険者だが、もう年だから簡単な薬草採集などをしながら、だいたい冒険者ギルドに入り浸っているというジジイだった。


「まあ、少しだけ」

「鑑定魔法は鍛えれば制度が上がるんだろう、色んなところで引っ張りだこだ」

 爺さんの話しでは鑑定士はそこそこ貴重な人材らしい。


 鑑定魔法を使える者は少ないし、鑑定魔法を使ったところで知識がなければ意味がない。

 この冒険者ギルドにも鑑定魔法が使える者は三人しかいない。しかも立派に鑑定士と名乗れるのは一人しかおらず、後の二人は鑑定魔法が使えるというだけで、鑑定辞典と突き合わせてようやく鑑定ができる見習いだ。

 だから、持ち込まれる魔物素材の鑑定だけで手いっぱいで、硬貨一つ一つを鑑定している余裕はないそうだ。


 それでも、硬貨だけなら鑑定魔法が無くても真偽を見分けることはできる。現に革職人のオバサンはしっかり硬貨を見定めていたし、ほとんどの商売人はこれまでの経験で偽硬貨を見破れるという。

 冒険者ギルドなど大きな組織は、毎日の金の動きも多いし、金勘定をするのはほとんど商売素人の職員だから、偽硬貨を使う輩に狙われやすいらしい。


 奥に引っ込んでしまったお姉さんはなかなか戻ってこないから、冒険者ギルドの精算を最後にしたのは正解だった。


 俺は壁に張り出されている依頼票を眺めて時間を潰す。リオは知り合いの冒険者がいるというから、そいつらと喋っていた。

 カウンターの隅で軽食も買えるそうだが、安さだけが売りで美味しくないというから止めた。

 依頼票の文字は読めないが、どことなく見たことのあるような文字だ。何故か数字は前世と同じアラビア数字だから、依頼票をいくつか見ていれば、上からランク、依頼内容、期限、報酬額が書かれていることはなんとなくわかってきた。


 時計がないからどれくらいの時間が経ったかはわからないけれど、たぶん一時間もせずに受付のお姉さんが戻ってきた。


 一緒に厳ついオッサンも出てくる。髪が真っ白になっているから爺さんといってもいい年齢かもしれないが、背が高いし筋骨隆々で、皺が深くても目に若さがあるから、爺さんとは呼びづらい。


「待たせてごめんなさい、こちらはこのギルドの支部長アレクさんです」

 受付のお姉さんに紹介されてアレクは前に出た。冒険者ギルドのお偉いさんといえば元冒険者だ。どおりで歳とっても厳ついわけだ。


「初めまして、君がギルくんか、鑑定魔法が使えるのかい?」

「まあ……少し」

 アレクに問われて俺はどう答えたもんか迷った。支部長まで出てくるなんて想定外だ。

少しでも面白いと思ったら是非ブックマークお願いします。

リアクションや★付けていただけると嬉しいです。

感想やレビューも待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ