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82.

「今回のでBランクに上がらないかな……」


 リオの呟きに俺は首を傾げる。


 BランクとCランクでは受けられる依頼の難易度が変わるから、勿論報酬も変わる。冒険者としてはランク上げは美味い話しだが、ギルドに素材を売るためだけにギルドカードを持っているリオには必要ないだろう。

 リオの実力ならすぐにAランクになれただろうに、登録してから二年経過してもCランク止まりだったということは、リオ本人はランク上げに対して興味はなかったということだ。


「俺はギルドカードなんていらんぞ」

「うーん、でもあった方が便利なんだよ……」


 なんだか煮え切らない様子でリオは唇を尖らせている。やっぱり身分もハッキリしないガキは家に置いておけないのか、いやでもリオが推薦人になって身分証を手に入れても結局身分はハッキリしていないから本末転倒だな。

 何をそんなにモヤ付いてるのか知らないが、荷物が軽くなった分、足取りだけは軽かった。


 毛皮を買い取ってくれる店は市場のある大通りに面していた。古びた木戸に下げられた看板には『グラント革用品店』と書かれているらしい。黒ずんで擦り切れている看板は、字が読めたところで読めなかっただろう。


 中に入れば実用性の高い革製品が所狭しと並んでいる。高級な店というより冒険者などをターゲットにした店のようだ。

「おはようございます」

 リオが声をかけると、奥から顔を出した男が無言で後ろの扉を指さした。奥に行けということらしい。

 エプロンを付けた男は客商売には向かない不愛想で、店員というより職人なのだろう。ここで修行する傍ら店番もしているという感じだ。


 入り口も店も狭かったが、驚くほど奥行きがあり、裏通りに面している建物一棟丸ごと作業場になっていた。建物に囲まれた中庭のような場所もある。ここは店はオマケで、革製品の製造や修復がメインのようだ。

 やっぱりこの世界でも間口の広さで税金や家賃が決まるのだろうかと考えながら、俺はリオについて奥へ進む。


 リオはここでも顔パスというか、勝手知ったる他人の家という様子で勝手に入っていく。顔なんて髪のせいで半分も見えないくせに、怪しまれることがない。

 たぶん一番大きな作業場には四人の若い男がいて、それぞれ革の加工や細工をしていた。


 空いてるテーブルに勝手に持ってきたものを広げていると、奥から小さなオッサンと大きなオバサンが出てきた。ここのオーナーのグラント夫婦だという。

「シルバーウルフの毛皮か、珍しいな」

「状態はいい、若い毛並みね、綺麗なコートになりそう」

 夫婦は挨拶もそこそこに、テキパキと持ち込んだ魔物の革の査定を始めた。


 皮を見ながら一つ一つどこでどのように狩ったか聞かれる。魔物革はどこで獲れたかとか、生きていた頃の様子などで加工方法が変わるそうだ。

 ここまでの肉や魔物素材はそんなことぜんぜん気にしていたなかったのに、革職人の夫妻は拘りの強い職人気質なのかもしれない。ただリオの戦いっぷりを面白おかしく聞いているだけのような気もする。

 でも、俺も根掘り葉掘り聞かれるので狩の様子を細かく説明する羽目になった。罠を仕掛けた部分は言葉を濁したが。


 毛皮の買取はその場で査定が済んだ。一番高値が付いたのは狼の毛皮で、熊と猪はそこそこ、想像以上に高額になったのが革で作った鞄やポーチだった。

「相変わらずジーンのカービングは見事だな」

「カレンも腕を上げたわね」

 ジーンはリオの祖母で、カレンはリオの母だ。


 確かに、リオの家でも革に細かい細工をしていたのは主に婆ちゃんだった。リオの母ちゃんはまだ弟子という感じだったが、それでも革を削ったり凹ませたりして刻む模様はすごく細かかった。

 自宅で普通にやってるから、人間界ではこれが一般的なのかと思っていたが、革職人も認める腕前だったのか。婆ちゃんにはもう少し媚売って教えを乞うておこう。


 大きなオバサンがどっしりとした大きな箱を出してきた。金庫らしく、中には硬貨がずらりと並べられている。木製のように見えるが、防御や盗難防止の魔法が何重にもかかっている。オバサンは軽々と持ってきたけれど、たぶん持ち主以外は動かすこともできない代物だろう。


「数はわかるかい?」

「わかる」

「じゃああんたも数えな」


 一枚一枚硬貨を数えて渡されて、俺も一枚一枚数える。

 子供相手だからではなく、この工房では買う時も売る時もきっちり確認をさせるという。計算のできないやつにも黒板に書くなりしてしっかり説明するそうだ。


 査定の時はお喋りばっかりするやつらだと思ってたが、職人としてもオーナーとしてもちゃんとしている。作業場の机や壁にでかでかと何か書いてあるのは、読めないけれど、たぶん「指さし確認」とか「安全第一」とか書いてあるのはわかる。

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