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80.

 隣町は確かにエジンの村よりはずっと大きかったけれど、やっぱり田舎町だった。


 建物は石積かレンガ造りで、高くても四階建てまでだ。大通りが市場になっているが、店舗を持っているのは数えるくらいで、ほとんどが道端に布を敷いて品物を並べている露店スタイルだ。

 人出は多いけれど、やっぱり村人同様にこの街でも庶民は風呂に入る習慣はなさそうだ。村から来た小汚い子供たちが別に目立っていない。

 でも小綺麗な格好をしている人間もぼちぼちいるのは、たぶん役人やギルドの役職持ちだろう。


「じゃあ、夕方の鐘が鳴るまでには戻って来いよ」

 町に入ってから、大通りを少し進んだところに馬車を停めておく用の広場があった。利用料は取られるが、見張りもいるし馬のための水場などもある。まだ朝という時間だが、既に結構な数の馬車が停まっていた。


 ここでみんな別れて、子供たちは教会へ向かい、村長の息子はまず役場に用があるという。俺とリオは積んできた荷物を売りに行く。夕方にまたここに集合してみんなで帰る。


 元気に走っていくガキどもを見送れば、道の向こうに白っぽい建物が見える。あれが教会だろう。建物の壁に横向きの十字架みたいなものが大きく描かれている。この国の十字架は縦棒より横棒の方が長いらしい。

 よく目を凝らせばキラキラした魔力と薄い結界が見える。でもあんな結界なら、俺どころかルビィやピーパーティンだって突破できるだろう。


 それだけこの町が平和ということなのか、いや魔の森に一番近い町が安全なわけはない。あれが人間の魔法の限界なのか、それとも結界が無くてもどうにかできるだけの武力でもあるのだろうか。

「おいルビィ、ちょっと教会の中探ってこい」


 小声で話しかけたら、黒猫のルビィは「ギニャ?!」と心底嫌そうな鳴き声を上げた。

「見つかったらどうすんのよ」

 建物の中なら鳥よりも猫の方が怪しまれないだろうと思ったが、ルビィは早くも弱気だ。純粋な戦闘力はそこらの人間よりも劣るからな。


「見つかったら全力で猫のふりするか、ネズミか虫にでも化けて逃げりゃいいだろ、それに中にいるのは牧師だから、たぶん男だ」

 変身魔法はルビィも得意だし、男相手なら淫夢の魔法だって使えるだろう。教会関係者の力量は知らないが、淫夢は魔法の力量よりも精神力が重要だ。どれほど修行しようがエロい気持ちを捨てきれる男なんてそうそういない。


 ルビィはしばらく教会と俺の顔を見比べていたが、教会の結界が大したことないとわかれば、渋々子供たちを追って教会の方へ歩いて行った。この世界で黒猫は不吉なんて迷信は聞かないから、教会内を黒猫が歩き回っていても追い出されまい。


 ピーパーティンは大きめの町に興味心身でキョロキョロ鬱陶しかったので散歩に出した。夕方までに馬車に集合というのは聞いていたから、たぶん勝手に戻ってくるだろう。例えここに置いて行ったとしても俺に支障はない。


 売買担当の俺たちは、まず一番量のある肉を売りに行く。

 肉屋は馬車広場の近くにあるというから、他の売り物を一旦村長の息子に見ておいてもらって、肉だけ担いで肉屋へ向かう。


 ここでもリオの馬鹿力が活躍して、自分の身長よりも大きな背負子に山ほどの肉を括りつけて軽々と担いでいる。

 俺も自分の身長と同じくらいの背負子を背負っているから、人間的にはかなり力持ちの子供に見えるだろうが、リオの隣にいるとぜんぜん目立たなくてむしろ有難い。


「おはよう! 買取お願いします」

「ようリオ、今日も大量だな」

 肉屋では魔物肉を山盛り背負ってくるリオは毎度恒例らしい。驚くこともなく店主のオヤジはカウンターにドーンと乗せられた肉の山に笑っている。


「そっちは? 見ねえ顔だな」

 俺の方が珍しがられた。町といってもやっぱり田舎町だから、コミュニティはそんなに大きくない。近くにある村の子供らはみんなこの町の学校に行くから、どこの誰の子供かくらいはだいたい把握されているらしい。


「俺はギル、旅のもんだ」

「今は僕の家にいるんだ」

「そうかい、良い家に拾われたなボーズ」

「ギルだ」


 俺が睨んでも店主は豪快に笑うだけだ。黒いもじゃもじゃの顎髭を蓄えたガタイの良い男で、解体用の大きな包丁を持っているから、そこらの盗賊よりも恐ろし気な見た目をしている。大らかな笑い声を聞くだけで気の良いオッサンであることはわかる。


 俺はこの店で銅貨以外の硬貨を初めて見た。店の奥でオバサンがジャラジャラと釣銭を用意している。

 通貨はすごく単純で一番安いのが銅貨、銅貨百枚で銀貨になり、銀貨百枚で金貨になる。王都に行けばもっと上の通貨があるらしいが、田舎で見るのは銅貨と銀貨と金貨くらいだという。


「レッドベアとホーンボアはいいが、シルバーウルフの肉は家畜の餌にしかならんから安いぞ」

 珍しい獲物を見て肉屋の店主は目を丸くしているが、狼は肉が不味いから人間は食べないらしい。


 そういえば魔界でも狼系の喋らない魔物は結構いたけど、食用の家畜からは除外されていた。躾ければ猟や護衛に使えるから見つけたら捕まえてはいたけど、俺もたぶん食べたことはない。

 肉食獣の肉は不味いと聞いたことがある。でも、魔物は狼だけじゃなく熊も猪も肉食だのに、狼だけ肉が不味いのはなぜだろうか。


「全部買取でいいよ、ギルもいい?」

「任せる」

 狼肉だけ返されたって俺には使い道がない。あ、家畜の餌になるというなら、ピーパーティンとルビィの餌にすればよかっただろうか。まあ、虫でも食べるあいつらのために食料を確保しておく必要もあるまい。

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