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75.

「俺も一人の方がやりやすいから、昼飯の時だけ落ち合おうぜ」

「うん、わかった、くれぐれも気を付けてね」

 なんて言いつつ、俺は隠れてリオの後を追って観察するつもりだけどな。


 森の中で一旦別れてから、充分距離を取ってから俺は気配を消してリオの後を追った。

 リオは狩りに慣れているから気配を探るのも上手いが、魔法の知識は乏しいから、完全に気配を消す魔法を探知するような技術は持っていない。俺はいざとなれば動物に変身することもできるが、今は音を立てずに木の上に潜むだけで充分だ。


 ルビィとピーパーティンは尾行の邪魔になりそうだったから、森の中の探索を命じる。俺も狩りに来たからには獲物を持って帰らないと格好がつかないからな。


 リオは俺に気付く様子もなく、歩き慣れた庭みたいに森の中をスタスタ歩いている。周囲を一応は警戒しているようだが、足取りが軽いからまるで気軽な散歩だ。

 あいつにとっては村の近くの森なんて本当に庭のようなものなのだろう。俺と遭遇した時も、特に目的もなく暇だったから木の実採集がてら歩いていただけらしい。他の子どもたちは年長のアンだって一人で森に入るのは許されていない。


 周囲にはそこそこの魔物がゴロゴロいる。それでもリオは身構えることなく、むしろ積極的に近付いていく。狩りなのだから獲物に近付かないと始まらないが、熊のような魔物がリオを見つけて襲ってきた時に気が付いた。

「あいつ、見つかるために気配消してるな」

 狩りなのだから、いくら無警戒に歩いているように見えても気配や足音には気を付けているのだろうと思ったが、リオの場合は逆に魔物と遭遇するために力を抑え込んでいる。


 普通の動物ならば人間などが近付いたら警戒して逃げていくが、魔物は逆だ。基本的に血気盛んというか本能的に戦闘バカだから、強いものや未知のものがいれば嬉々として近付いてくる。だから、森の中では野生動物の被害よりも魔物の被害の方が多いのだ。

 しかし、生まれつき戦闘バカだからこそ、相手の力量を計る能力も持っているのが魔物だ。あまりに強過ぎるやつには襲ってこない。俺がこうして平然と森を歩けるのもそのせいだ。


 きっとリオも気配を隠さないと魔物が逃げていくのだろう。これはリオ本人も知っていて意識して力を隠している。気配は消しているのに足音はほとんど消せていなかったのは、ガキらしい未熟さだと思っていたが、とんでもない。あれはわざと未熟なふりをしている化物だ。


 そんな化物にまんまと騙されて襲い掛かった熊は、自慢の鍵爪も軽々避けられて、脳天に跳び蹴り一発で泡を吹いて絶命した。


「一発かよ……」

 あいつ本当に人間なのか不安になってきた。

 相手の熊は知能もないし、魔界では岩場の雑魚どもと同等の弱い魔物ではあるけど、普通の人間はただのヒグマにだって勝てないものではないのか。


 リオは獲った獲物を小屋に置いて、また次の得物を探しに行く。

 小屋といっても建物も何もない。村人にだけわかる目印があって、ただ鳥獣除けの結界が張ってあるだけの場所だ。結界を見ることができれば、確かに三角屋根の小屋みたいな魔法壁が見える。

 森の中にはいくつかあるらしい。複数人で大型の魔物を狩る時は獲った獲物を持ち歩くわけにいかないから、こういうところに置いておいて、帰りにまとめて回収していくわけだ。


 リオは次から次へと魔物を見つけては、どいつもこいつも一発で仕留めていく。最初に熊を置いた小屋を拠点にすることに決めたらしい。小さな結界の中にどんどん魔物の死骸が積み上がっていった。

 まあ、ここら辺は魔の森のせいで魔物は際限なく沸くし、いくら強いと言っても高が子供一人で種の絶滅を危惧する心配もない。リオの家は大家族だから金はいくらあっても足りないだろうし、俺は魔王だから弱肉強食に異を唱える気もない。


 それにしても、このままじゃ俺の狩る分が近くからいなくなりそうだ。なんて心配をしていたら、丁度良いのがやって来てくれた。


 狼のような魔物の群だ。五匹、いや六匹いる。一番気配を消すのが上手いやつがリーダーだろう。他のよりも一回り大きいのによく隠れている。

 群れとしては小さいし、若いオスばかりのようだから、どっかから流れて最近この森に来たのだろう。群で行動する肉食獣が村の近くに住み着いていれば、とっくに村人に被害が出ていたはずだ。


 狼たちはそこそこの知能があるらしい。自分たちで獲物を追うよりも、既にたくさん積まれている死骸を横取りすることにしたようだ。小屋の結界はあくまで小動物を避けるだけだから、大型の魔物が複数でかかれば壊すことはできる。


 リオも囲まれていることに気が付いた様子で、さっきよりも注意深く周囲を探っている。気配を隠すのもやめたが、いくら強くたって一対多数は不利だ。気配を晒したことで一匹でいることを自らバラしてしまっている。


「あれは流石にヤバくないっすか?」

 どっかから飛んできたピーパーティンは俺の肩にとまりながら言う。狼の魔物が近付いているのを見つけて俺の元へ飛んできたらしいが、飛んでいるくせに報せが遅い。


 リオは強いと言っても所詮はただの村人、戦闘訓練を受けたわけではないから複数体を相手取る戦い方は知らないのだろう。狼たちを追い払うより、一匹か二匹を躱して逃げる方法を考え始めている。


「ギルバンドラ様の力を示す時では?」

 音もなく木を登ってきたルビィが自分事のように自慢げに言う。こいつは狼の魔物に気が付いて逃げるかどうするか考えて、俺の傍の方が安全と答えを出したのだろう。でもここで本名を口にするな。誰が聞いているかわかったもんじゃないから、猫の口を押えて笑顔で圧をかければ何度も頷いてくれた。

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