74.
人間の村に滞在して三日目、今日はリオが狩りに行くというから俺も一緒に行くことにした。
「本当に大丈夫? ここらは魔物も多いし、獣も狂暴なのが多いのよ」
「平気だ、俺はここまで一人で旅してきたんだ」
旅というには魔界から出てまだ三日目だが、ここまで自力で来たのは本当だから嘘は言ってない。
「武器は本当にいらんのか? 大型の魔物も多いぞ」
「うちの槍は古いがよく使い込まれたもんだ」
「いらん、長過ぎる」
流石は狩猟の村、リオの父や祖父は俺が狩りに出ることは止めない。子供だって十歳くらいから大人について狩りに出るらしい。それでも武器がないのは心配そうだ。
この付近に生息するヒグマぐらいの大きさの魔物は、魔界では中型か小型くらいだが、人間界では大型の魔物になるらしい。だから村人の主な武器も間合いを取って戦える槍や弓だ。
しかし、大人用の槍しかないから、自分の身長の倍以上ある槍なんて邪魔でしかない。人間界なら人間の戦い方の真似をした方がいいのだろうが、それにしたってガキが森の中で槍を振り回すのは無理がある。弓は使い方を知らないから論外。
「というか、リオだってナイフしか持ってないのに、俺ばっかりなんだよ」
一緒に行くリオも武器はナイフしか持っていない。魔物解体用だからナイフというよりも小刀というような刃渡りだが、魔物相手の武器としては心許ないだろう。それと縄だけ、ほとんど手ぶらみたいな装備だ。
ちなみに、俺はリュックの中に縄やナイフが入っているということにしている。このリュックは空間魔法がかかっている設定だし、実際は何も入ってないけど必要ならなんでも魔法で作るか召喚することができる。
俺の指摘にリオの家族は一様に顔を見合わせてキョトンとしている。
「リオは、なあ……」
「リオはいつもこんなもんだから、ねえ」
「リオ兄ちゃんは強いから良いのよ」
「じゃあ俺もいいだろうが」
リオの強さは兄弟だけじゃなく親も祖父母も認めるところらしい。このひょろひょろのガキンチョが大丈夫で、俺が心配されるのが腑に落ちない。
「ギルは大丈夫だよ、ここまで自力で来たのは本当だし、魔法も使えるって言うしね」
リオは俺のことをあまり心配していないようだ。俺が一人で森をフラフラしていたのを見ているからだろうか。
それにしてもさっきから、一人じゃないっすよ、私もいるじゃないの、という目で睨んでくるピーパーティンとルビィがウザい。話し相手くらいにしかならないくせに戦力面するな。
「ギルにいちゃんまほう使えるの? どんな?」
末っ子のメイがキラキラした眼差しで聞いてくるが、そう言えば、人間の魔法のレベルがわからないから迂闊なことが言えないのだった。
「えーと、火魔法とか……」
俺のハッキリしない答えに、リオの父と祖父までちょっと心配げな顔になった。本当に使えるし、俺が本気出せば村ごと消し炭にできるんだからな、とは思うものの実演するわけにもいかない。
「それに、ピーパーティンとルビィもいるし」
「その猫と鳥は何かできるのかい?」
「おと……魔物見つけるのが得意だ」
囮と言おうとしたら二匹とも即座に逃げようとしたから、引っ掴んで言い直してやる。これは本当だ。弱っちいから強者の気配を一早く察して逃げ出すことには長けている。
「危ないもんにすぐ気づけるなら、まあ……」
「火魔法なら、獣追い払うことはできるだろうし……」
心配げな大人たちもとりあえず納得してくれた。獲物を獲ってくる方はぜんぜん期待されていないのは腹が立つので、大物を獲ってきて一泡吹かせてやらねばなるまい。
納得はしたが、尚も弁当や傷薬を持たせてきて、リオの傍から離れるなと言い聞かされて、俺たちはようやく家を出られた。
「俺だって狩りくらいできるっつーの」
子ども扱いされるのは都合はいいけど、あまりに過保護にされるのは鬱陶しい。俺は魔王ギルバンドラだぞ。名乗ってないのは俺の方だけど。
「でも、僕が傍にいなくて大丈夫?」
家を出てすぐに別行動だと言ってあるのに、リオまで心配そうに俺を見てくる。
今日の狩りの目的は人間の狩りの方法を見ることだが、それよりもリオの実力を見定める方がメインだ。だから俺のお守りをして実力を出さないでもらっちゃ困る。
「おまえは一人の方が動きやすいだろ」
「……まあ、ね」
俺の言葉にリオは目を見開いたが、すぐに苦笑を零した。
この狩猟の村でも子供だけで狩に出すことはない。大人だって単独で狩に出ることは滅多にない。しかし、リオはいつも狩りは一人でするという。
それはこの村にリオについて行けるやつがいないからだ。たまに大人たちに交じって狩りに出ることはあるらしいが、そういう時は大人たちに遠慮して全力は出さないのだろう。
リオに狩りの話しは聞いていないけれど、こいつの力を見れば想像に易い。実際、リオ単独で狩をした時の方が獲れる量が段違いで多いというから、リオの家族だって単独の狩りを認めているのだ。
強いやつは相手の力量を推し量る能力にも長けている。俺がリオの実力をわかっているのと同じく、リオも俺の力には気が付いているのだろう。はっきりとわかっているわけではないようだが、そうでなければ俺を狩りに連れて行くのをこんなにすんなり許すはずがない。
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