73.
「誰かに習ったりはしないのか?」
「ここらへんで魔法教えてくれる人はいないよ、町の方には魔法使いはいるけど、ちゃんと魔法学校に通った方がいいって言われたし」
魔法学校なんてあるのか。しかし、この口ぶりなら近くにはないのだろう。
「ギルは師匠がいるの?」
「いや、独学」
生まれた時から使い方を知っていたというのは独学と言っていいのか知らないが、師匠もいないし魔法学校なんぞも知らんからこう言うしかない。
畑の手伝いが終わったら次は家の補修の手伝いだ。外壁のちょっと崩れかけているところを直すという。小さな村だし子供だって立派な労働力だ。
とは言え、手伝っているのは主にリオだ。アンは小さい子たちの面倒を見るという役割があるようだが、トニーとジムは手伝いをしたり遊んだりの繰り返しだ。メイに関してはほぼ遊んでいる。
この村は裕福ではないがすごく貧しいわけでもないから、子供まで本格的に労働させる必要はないのだろう。
ルビィとピーパーティンはあまり器用なことをさせると怪しまれるから、今は玩具として子供たちに提供している。オママゴトの食材役や、狩りごっこの得物役などで随分ボロボロにされているが、丈夫さだけは魔物レベルだから問題ない。
リオは長男だし力も強いし、十五歳だとこの村だとほぼ成人と同じ扱いらしい。俺は畑とか家の作り方に興味があるから積極的に手伝っている。
外壁の修繕は大雑把なもんで、崩れかけているところをいっそ崩してしまい、綺麗にしてから穴を埋めるように石材を積んで、隙間に泥を詰めて固まるのを待つ。
「こんなんじゃ雨降ったら崩れるんじゃねーの」
「コンクリートは雨じゃ崩れないよ」
「え! これコンクリートなのか?」
俺は思わず声が出てしまったが、リオは可笑しそうに笑いながらも説明してくれた。
コンクリートの材料は魔物の骨だった。牛みたいな魔物の骨を焼いて砕いて粉にしたもので、水を混ぜてドロドロにすればどんな形にもできる。乾けば硬くなって水をかけたって崩れなくなる。性質は前世のコンクリートと同じだ。
コンクリートだけなら白い色をしているが、この村ではあまり手に入らない素材だから、嵩増しするために砂を混ぜているそうだ。見た目が完全に泥になるから、俺もコンクリートだと気付かなかったと思われたようだ。
材料こそファンタジー世界ならではだったけど、前世でもコンクリートはローマ時代から使っていたところはあるはずだし、そんなに驚く材料ではなかった。ただ、名前がそのまんまコンクリートだったことに驚いただけだ。
「砂を混ぜると弱くなるんだけど、ここら辺は丈夫な石材があるからこれで充分なんだ」
その丈夫な石材の名前を聞いたが、リオも石についてはあまり知識が無くてわからなかった。
一応、鑑定魔法で壁の補修に使った石を診ておいたが、魔界の山岳地帯で見つけたすごく硬い石に似ているような気がするだけで、同じかどうかはわからない。
ついでにコンクリートも診てみたが、こっちは既に砂と混ぜられていたから、どれがコンクリートの成分色なのかぜんぜんわからなかった。俺の鑑定眼はまだまだ未熟だ。
壁の修繕が終われば、パンとお茶だけで簡単に昼食を済ませて、次はリオの母と祖母と一緒に革の加工だ。
「ギルちゃんも遊んで来たっていいのよ、忙しい時期じゃないんだし」
婆ちゃんは完全に俺のことをトニーやジムと同じくらいのガキだと思っている。俺が世話になっているのに引け目を感じて働いているとでも思っているのだろう。午後からはリオも近所の子供と遊びに出たし、この村の子供は結構のびのび暮らしているようだ。
「いい、俺はこれの作り方を知りたい」
俺は人間界に視察に来たつもりだから、家の手伝いをするのも俺のためであって、世話になっている人間に気を遣っているつもりなんて欠片もない。子供たちの方には引き続きルビィとピーパーティンを玩具として派遣しているから、子供文化の偵察はあの二匹に任せれば充分だ。
ガキの遊びよりも俺が知りたいのは婆ちゃんが作ろうとしている革鞄や靴の作り方だ。魔物素材が主な収入源だが、ただ素材を売るよりも加工して売った方が稼ぎがいいから、村人たちは狩りと同じくらい工芸品造りも得意だという。
魔界のダークエルフたちも布製品は作っても革製品はあまり作っていなかったから、魔物革の利用方法は是非とも覚えたい。
「ギルちゃんは働き者ねえ」
リオの母ちゃんにも子ども扱いされるが、何の警戒感もなく何でも教えてもらえるから子供はお得だ。
「お家が見つかるまで、いつまでも家にいていいからね」
「……迷子じゃねえ」
リオは俺のことをどう説明したのか、やっぱり迷子か浮浪児だと思われている。まさかここでも下がり眉のせいで可哀想な子供に見えるのだろうか。ルビィやピーパーティンもいるから、出会い頭に冒険者のテイマーだとか名乗っておけばよかった。
勘違いは不本意だが、とりあえず今は好奇心旺盛な子供のふりに徹して、というか徹さなくてもまんま子供だから、人間どもの技術を存分に盗んでやったのだった。
主人公が大人しいのは、人間界は完全アウェーなので借りてきた猫みたいになってます。
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