70.
結論を言うと、リオの家は豪邸でもなければ金持ちでもなかった。
こじんまりした平屋建ての一軒家にリオの父母と祖父母、弟二人と妹二人が住んでいる大家族だ。家の裏にはそこそこ広い畑があったけど、ほとんど家族で食べるための野菜を育てているだけで農家というわけではないという。
「寝るとこなくないか?」
リオの家族も俺のことをあっさり受け入れた。明らかな余所者なのに、リオが「友達泊めるから」と言えば「あらそう、ご飯は?」で済んだ。晩飯も貰った。いつの間に俺は友達になったんだ。
「詰めれば入るよ」
どこかから布団を持ってきたリオは、子供部屋の机の下にまで布団を敷いて笑っている。
晩飯を食ってから大人たちは居間で何か作業をしているが、子供はみんな子供部屋にいた。
ちなみにこの家に部屋は二つしかない。子供部屋と祖父母の寝室だ。子供部屋に上の子四人が寝て、祖父母の寝室に末っ子一人が寝て、父母は居間のベンチをベッドにして寝るらしい。
ガキ四人で寝てると聞いて二段ベッドでもあるのかと思えば、床に絨毯を敷いた上にペラペラの布団を敷いている。でも、確かにこの狭い部屋だと二段ベッドを二台置いたらそれだけでいっぱいになってしまう。蒲団なら寝るとき以外畳んでおけばいい。
子供は上から順番に、長男のリオ十五歳、長女アン十二歳、次男トニー十一歳、三男ジム九歳、次女メイ六歳だ。みんなボサボサの髪で小汚い格好をしているけれど、この村では大人も子供もみんなこんなもんだった。
既にギュウギュウ詰めなところに子供が一人加わるのは大変だろうとは思うのだが、むしろ、既にギュウギュウ詰めだからこそ子供一人くらい増えたところでどうってことないらしい。
「でも鳥籠がないんだよね」
「この前ジムが壊したから」
「トニー兄ちゃんだっていっしょにいたじゃん」
「ねえ、この子たちなんてなまえ」
「だから鳥籠早く直してって言ったのに」
「鳥獲ってきてやってもすぐに逃がしちゃうだろ」
「アンねえちゃん鳥好きだよね」
「メイがいつも籠閉め忘れるんだもん」
「ネコちゃんはあたしとねようよ」
敷いた蒲団の上にこの家の子供が全員集まってギャアギャアしている。外はもう真っ暗だ。室内の灯りといえば油に紙縒りを挿しただけのランプ一つだが、ガキどもは特に支障もないらしい。俺は勿論、例え真っ暗闇でも問題なく動ける。
子供が五人もいると大変賑やかだ。魔界の連中も好き勝手やるからいつも賑やかだったが、それとは別種の騒々しさだ。
何より、魔界なら煩ければ俺が拳骨で黙らせればよかったけれど、ここでそんなことをすると簡単に殺してしまいそうだから、俺はただ元気なガキどものテンションに少々気圧されていることしかできない。
「猫はルビィ、鳥はピーパーティン、こいつらは外でいい」
俺がそういうと、同じくガキどもの勢いにビビッて俺にくっ付いていた二匹からニャアニャアビービー苦情が上がる。人前では喋るなと言い聞かせてあるから、何を言っているのかわからない苦情は無視する。
「でも、村長の犬たちは他所から来た動物は追い払っちゃうかも」
「問題ない、犬も屋根までは上ってこないだろ、餌も自分たちで狩るし、こいつら食うのはネズミとか虫だから作物も荒らさない」
実際はルビィもピーパーティンも野菜は食べるが、作物荒らしたら殴るぞという目で睨んでおいたら下手なことはできないだろう。
まだ二匹とも文句のありそうな目をしているが、ピーパーティンは今までも食うに困ったら虫だって食べてきたのだから平気だ。ルビィは弱々サキュバスだから人間を殺すほど精力を吸い取ることはできない。今夜ちょっとエッチな夢を見る村人が増えるだけだ。
窓から二匹を放り出す際、子供たちには聞こえないほどの小声で文句を言ってきた。俺の言いつけに逆らえないままの文句なんて屁でもない。
「酷いっす!」
「このまま逃げてやる!」
「村の様子探ってこい、逃げたら二度と魔界に帰れないと思え」
俺の命令に二匹は震え上がって渋々外へ飛び出していった。むしろあの弱さだと魔界よりも人間界の方が生きやすそうではあるのだが、あまりに弱いから新天地でやっていける自信もないのだろう。
小動物がいなくなれば子供たちも少しは静かになるだろうと思ったが、ぜんぜん静かにならなかった。これがこの家の日常らしく、居間にいる大人たちも何も言ってこない。
そして、何故だか俺が囲まれて尋問を受ける羽目になった。
「ギルはどこから来たの?」
「遠く」
「どこに行くの?」
「決めてない」
「ずっと一人旅してるの?」
「最近だ」
「今まではどこにいたの?」
「故郷」
「故郷ってどこ?」
「遠く」
「どうして旅に出たの?」
「なんとなく」
俺のテキトウな回答に飽きることなく質問がとんでくる。他所者に警戒心のない村だと思ってたけど、やっぱり外から来たやつは珍しいのかもしれない。そろそろ俺の方がうんざりしてきた。
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