68.
相手も驚いていたから、俺がいたことは想定外だったらしい。ボサボサの栗色の髪で顔が半分隠れていてわかりづらいけれど、細っこいからたぶん子供だ。背は俺より頭一つ分は高い。
「迷子?」
「迷子じゃねえ」
降ってきたガキは俺のことを不思議そうに見ていたが、倒れているやつらに気が付いて再度驚いた。
「盗賊だ……」
しかし、心配はしていない。やっぱり盗賊だった男どもを注意深く眺めていたが、完全に意識がないことを確認すれば心配する様子もなくまた俺の方を向いた。
「君がやったの?」
「倒れてたの見つけた」
人間の強さがどれくらいかわからないから、とりあえず無力な子供のふりをしておく。
ルビィとピーパーティンは人見知りを起こしたように黙り込んで俺の肩に乗っている。初めてのまともに話せそうな人間に、どういう態度でいるべきかわからないらしい。
ただの動物のふりができているからいいけど、俺は両の肩に猫と鳥を乗せて、顔の両側が毛に埋もれている変なガキになってしまっている。
「ふーん、魔物にでもやられたのかな、運ぶの手伝おうか?」
突然現れた子供は別段不思議がるそぶりも見せないから、やはりここら辺は良く盗賊が出没する地域のようだ。
しかし、そんな当たり前のように申し出られても、俺には特に運ぶ場所もないのだ。
「え? どこに?」
「え? こいつらこの前討伐された盗賊団の残党だから、村長のところに連れて行ったら一人銅貨十枚もらえるよ」
そんな害獣駆除の駄賃みたいな制度があるのか。そして盗賊は害獣扱いなのか。しかし、銅貨の価値もわからないし、村長の居場所も俺は知らない。
俺が首を傾げたら、ピーパーティンはバランスを崩して転げ落ちそうになるし、ルビィはずり落ちそうになる。アホ二匹が俺の肩にしがみ付いている間に、人間のガキはさっさと盗賊たちを一纏めに縄で括ってしまった。
「こっち、案内してあげる」
ついて来いというから、とりあえずついていく。男どもはずりずり引き摺られているが、どうせ犯罪者だから気にしない。
人間のガキはひょろいと思ったが意外と力があるようで、大人の男二人引き摺っても歩くのが結構早い。
着ている服は継ぎ接ぎだらけの古着だし、獣の皮で出来ているらしい靴もあちこち継ぎ接ぎされているし、腰に下げた袋以外に荷物もない。テンプレみたいな村人Aだ。
しかし、よくよく見たら、このガキ相当強い。
森を歩いているからか気配を殺しているようだが、魔力の多さが隠し切れていない。デコボコの獣道なのにふらつくこともなくひょいひょい歩いている。たぶん、大人二人担いで走ることもできるだろうに、俺のために歩いているのだろう。
人間なんて弱っちいと思っていたけど、片田舎の村人がこのレベルだとすると、まともに訓練している軍人は、もしかすると獣人やオーガにも匹敵するのではないか。
当然、無力なお子様のふりをしても俺は人間なんかに遅れはとらないから、スタスタ歩くガキについて行けば、あっという間に村に辿り着いた。おそらく、ピーパーティンが上空から見つけた集落だろう。
到着して真っ先に驚いたのは、何匹も犬が放し飼いにされていた。
首輪を付けているから飼い犬だとはわかるが、紐も鎖も付いていない。立ったら俺と同じくらいの身長になりそうな大型犬だし、しかも、たぶん魔物の血も混ざっている。魔物の気配は薄くてわかりにくいから、きっと普通の犬と犬型の魔物の混血なのだろう。
見るからに村の番犬だ。知らない顔の俺を見て唸り声を上げている。ルビィとピーパーティンは既に俺の服の中に逃げ込んでいた。流石は魔物界でも最弱、ほとんどただの犬にさえ勝てないらしい。
しかし、魔物の血が混ざっているおかげか、すぐに俺の正体がわかった様子で唸るのを止めた。何匹かは腹を見せてきたので撫でてやる。うちの雑魚ペット二匹よりもよっぽど優秀な番犬だ。
「村長の犬がすぐに懐くなんて珍しい」
人間のガキは盗賊を見つけた時よりも驚いた顔をしている。ボサボサの前髪で目元はぜんぜん見えないけれど、ぽかんと開いた口を見れば、目も真ん丸く見開いた間抜け面をしているのはわかる。
「放し飼いにしてて危なくないのか?」
「平気だよ、訓練されてるから、村から出ないし、悪いことしたやつしか噛まないし」
むしろ放し飼いにしていないと、村に魔物や盗賊が侵入した時に間に合わないという。
ついでに、村人か村人じゃないか見わけも付くが、悪さをすれば村人だって噛むように躾けているそうだ。善悪の区別がつくとか、悪意の匂いを嗅ぎつけられるという特殊能力があるところは魔物らしい。知能に関してもルビィやピーパーティンよりも上かもしれない。
森と村の間に仕切もないけれど、番犬たちの許しも得たので俺は村に踏み込んだ。
村の家々はどれも石造りの小屋みたいなものだった。屋根に煙突があるから一軒ずつに竈か暖炉はあるのだろう。井戸は何件か共有らしい。
平屋の素朴な家がざっと見ただけでも二十軒くらいある。村というより集落というような規模に思えるが、俺はこの世界の人口もわからないから、この村が小さいのかどうかもわからない。
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