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67.

 俺は額を押さえて俯いた。


 これはもう、旅に出る前に念話の練習をさせなかった俺のミスだろう。まさかルビィもピーパーティンも、ここまで念話がド下手くそだとは思わなかったのだ。

「もういい、人前では小声で話せ、念話は離れた場所からの緊急連絡にだけ使え」


 俺が疲れた溜息を吐くと、ルビィもピーパーティンもおまえのせいだぞと言うように睨み合うが、どっちもどっちだ。目くそ鼻くそを嗤うような争いは止めてくれ。


 俺は適当にピーパーティンが指し示した方へ歩き出した。あの高さから目視で見えるなら大した距離ではないだろうし、幸いなことに人間界にも魔力はあるようだから、俺の体力は無尽蔵だ。疲れたのも精神的な疲労の方が大きい。

 森は碌に手入れもされていないように見えるから、集落に行くまで人間に遭遇することもないだろうと気楽に歩いていたが、思いがけず遭遇してしまった。


 オッサンが二人、近くの茂みを掻き分けて現れた。

 まあ、近くを二足歩行の何かが歩いている足音は聞こえていたけど、まさか人間だとは思わなかったのだ。

 これは魔界しか知らない弊害だろう。二足歩行なんて人間以外にもいろいろいるしと思ってた。もしかすると人間界には人間以外に二足歩行の生き物はあまりいないかもしれない。


「うおっ、なんだガキか」

「なんでこんなところに」

 俺も驚いたけど出てきたオッサンたちも驚いていた。俺の方は相手が魔力の探知にも引っかからないくらい弱っちいやつらだったから、驚いたって声は上げない。森で虫が飛んできたくらいの出来事だ。


 男二人は見るからにカタギじゃない。

 防具らしきものを着込んでいるけれど、素材や形がバラバラだから、あちこちで拾い集めて身に着けているのだろう。武器も剣やナイフを腰に下げているし、片方は斧みたいなものを背負っているが、どれも手入れされているようには見えない。どう考えても正規兵ではない。

 しかし、やたらと武装しているから善良な村人でもなさそうだ。たぶん、間違いなく盗賊だ。


「金目のものは首飾りくらいか」

「ガキなら売れば金になるだろ」

 俺の予想の答え合わせみたいな会話をしてくれた。盗賊で決定だ。しかも、目の前で堂々とこんな会話をしているのだから、俺のことをバカで非力なガキだとしか思っていないのだろう。


 俺も魔王だから悪を罰するつもりはない。人間界のことを教えてくれるなら盗賊だって構わないのだが、話しが通じない手合いに付き合ってやる気はない。


「一人で森に入っちゃダメって親に教わらなかったのか」

「こんなところうろちょろしてるおまえが悪いんだぞ」

 ニヤニヤしながら武器を構えた男二人に、俺は声を出すのも面倒臭くて、指でちょいちょいと合図を出し、男たちの背後の枝にとまっていたピーパーティンに片付けを命じる。


 ピーパーティンはうげぇという顔をしつつも、怪鳥の姿に戻って男たちの背後に降り立った。逃げ隠れが得意なピーパーティンは、気配を消すのも得意なのだ。

 後ろに大きな影ができたことに気付いた男たちだったが、振り返った瞬間、ピーパーティンの両羽で頭と頭をごっちんこされて気を失った。見た目は大したことないけど、すごい音がしたから頭蓋骨が割れているかもしれない。別に死んでても構いやしない。


 それにしても、ギャグマンガみたいな盗賊退治の仕方に俺は苦笑してしまう。

「おまえの攻撃、鳥らしさ皆無だな」

「しょーがねーじゃん、こんなとこで風おこしたら木も倒しちゃいますって」

 ピーパーティンも一応は考えて行動したようだが、考えた結果、鳥の特性が一歳活かせないのもどうかと思う。

「他の技覚えろよ、もしくは風魔法の精度を上げろ」

 お喋りしながら気を失っている男どもの持ち物を漁る。頭はちょっと凹んでいるけど息はあった。


 しかし、見た目の小汚さ通り大したものは持っていなかった。装備も武器もゴミみたいだし、金目のものも持っていないし、地図とかコンパスとか使えそうな物さえない。

「収穫無し、食べる?」

「そんな雑魚、食べるとこなんてないわよ」

 念のためルビィにも聞いてみたが、雑魚の盗賊はサキュバスの腹の足しにもならないようだ。ピーパーティンは小鳥の姿に戻って、人間の持ち物や服装を珍しそうに眺めていたが、何か欲しいものもないようだった。


 俺も持ち物については人のことを言えないが、見た目ただのガキがアクセサリーなど付けていたら窃盗犯に狙われる危険はあるわけだ。盗まれない自信はあるけれど、雑魚に絡まれるのも面倒だから、魔王石の首飾りは服の中にしまっておくことにする。


 初めて人間界で遭遇した人間がこれだとガッカリだ。まさか集落に行ってもこんなんばかりではないだろうが、こんな盗賊がうろついている地域だとあまり期待は出来そうにない。


 そんなことを考えていたら、突然、目の前に人間が降ってきた。


「うわっ」

「わっ!」


 今度は本当に驚いて声が出た。

 どこから跳んできたのか、目の前に降り立ったのは人間の子供だったが、今度は魔力が弱いとかではなく、しっかり気配を消していたからだ。

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