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66.

「これ、何か意味あるの?」

「たぶんな」


 確かに今までも魔界から出ようとする魔物もいなかったし、魔界に侵入してくる人間もいなかったというけれど、ダークエルフ曰く樹海に侵入してくる人間は結構いたらしい。

 大抵は素材集めのために樹海の近くをうろついていて、いつの間にか迷い込んでしまった人間たちだ。人間界の方へ出られればラッキーだし、そうでなければ樹海の中で死んでしまうから、魔界まで辿り着ける人間はほぼいなかった。

 そう考えると、魔界まで辿り着いた元人間の黒魔導士は、意外と優秀なのかもしれない。


 しかし、俺はこれから魔界を発展させて人間界とも交易をしたいと思っているから、魔界にあんまり恐ろしいイメージばかり持たれては困る。だから、樹海に入ってもなるべく死なずに人間界の方へ戻れるようにしたのだ。


 これだけでいきなり樹海のイメージは変わらないだろうが、どうせ魔界の改革は云百年単位の長い計画になるから、魔物のイメージアップも長い目で考えればいい。


「さてと……どこに向かうべきか?」

 樹海を抜けたというだけで、まだ人里に出たわけじゃない。

 ただ、樹海みたいに鬱蒼として魔力に満ちている禍々しい雰囲気はなくなった。周囲を探ってみれば、樹海からの魔力の影響で魔物っぽいものもいるけれど、魔界ほど変なものはいない。狂暴そうなのでも熊や猪みたいなものくらいだ。


 人間界についての知識は全くない。漠然と樹海の向こうに大きな国があったはずということしかわからない。

「ピー、ちょっと上から人間いそうなとこ探してこい」

「あいあ~い」

 気の抜けた声を上げて小鳥の姿のピーパーティンが飛んでいく。


 上空高く飛んでもピーパーティンの派手な姿は見失わない。前世でも見たことあるヨウムみたいな鳥だから、人間界でも目立たないだろうと思って連れてきたけれど、あの鮮やかな黄緑色はもしかすると凄く目立つかもしれない。

 ピーパーティンは上に飛んでからすぐに戻ってきた。

「あっちの方に何かデカい箱みたいなのが並んでるっす」

「案外近くに住んでるんだな」

 このアホ鳥に正確な方角だとか距離感だとかは求めていなかったが、そう言えば魔界の連中は人間の建物さえ碌に見たことがなかったのだった。木材や石材で作った建築物は箱のように見えるだろう。


 そこで俺は重要なことを思い出した。

 人間界から来た黒魔術師の話しによれば、人間界には言葉を喋るような魔物はいなかったらしい。意思疎通ができるというだけで上級の魔物と判断されて、警戒度が上がるそうだ。

 現代の人間界がどうなっているかはわからないが、意志疎通のできる魔物は山の主だとか森の主だとか呼ばれて、ほとんど信仰に近いほど国家レベルで恐れられていたという。そういう思い込みが百年やそこらでまったくなくなっているとは考えにくいだろう。


 魔界では話せる魔物なんて有り触れていたからすっかり忘れていた。ピーパーティンやルビィは雑魚だから連れてきたのに、喋れるというだけで上級の魔物だと勘違いされては困る。

「おまえら人間界ではその姿で喋るなよ」

 魔物がいる世界だから喋る鳥や猫がいるかもしれないけど、まだわからないから念の為、猫や鳥の姿をしている時は喋らない方がいいだろう。


「じゃあ、どうやって話すんすか?」

「会話が必要になる度に人の姿になれとでも?」

 ピーパーティンはもうお手上げ状態でポケーとしている。ルビィは人に化けるくらい簡単にできるが、猫がいたところにいきなり女性が出てきたら、猫が喋るよりも驚かれるだろう。


「いや、念話くらいできるだろ、頭の中で会話しろ」

 言われてから、ルビィもピーパーティンもそう言えばそんなものもあったなという顔をする。

 こいつらは雑魚過ぎて同族からも省かれているし、岩場の雑魚どもは行き場がないやつがたむろしているだけで仲間意識は希薄だった。つまり基本はぼっちだったから、コソコソ話をする相手もいなかったのだ。


 雑魚どもの可哀想な事情はさておき、多少なりとも魔法が使えるなら念話はできるはずなのだ。空気の振動を魔力の振動に変えて糸電話をするようなもんだから、魔力消費だって気にするほどの量ではない。


『え~と、こうすんだったっけ? 聞こえるっすか?』

「……こう、すんだっけ……聞こえる、すか……」

 ピーパーティンは念話は出来たが、頭で考えてることが全部口に出ていた。


「全部声に出てるよ」

「え、あれ~?」

『え、あれ~?』

 今度は口に出したことが念話になって重なって聞こえる。アホなので思考と会話を切り離せないらしい。俺が睨み付けたらテヘペロという顔をするが、アホをアホ可愛さでは誤魔化せない。


『もう下手ね、念話はこう、こうやって、こうよ』

 ルビィは完璧に念話を使いこなせてはいるが、何故か、声と一緒に黒いモヤモヤした何かが頭に流れ込んでくる。


『その黒いモヤモヤはなんだ?』

『え? 念話の仕方ですわ、魔力を、こうやって、こうするのですよね』

 どうやら、念話のやり方をアホ鳥のために図解して説明してやってるようだが、イメージするセンスがないため、図解が意味不明な黒いモヤモヤになっているようだ。


 俺とピーパーティンがぜんぜんわかんねえという顔をする。ルビィは何でわからないんだと愕然としているが、物分かりの悪い生徒を見るような眼をするな。これは明らかにルビィの説明方法が悪い。

『だから! 魔力をこうぐるっとして、伝えたいことと一緒に頭の中でパッとすればいいのよ!』

『ぜんぜんわかんね』

「ぜんぜんわかんね」

 ルビィは言語で説明するセンスもなかった。ピーパーティンはどうやっても念話が口に出る。

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