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64.

 俺の生まれて初めての旅だ。


 と言っても、俺は生まれてまだ一年も経っていないし、なんなら魔界でだってまだ行ったことのない場所はあるだろうから、どこへ行くのも新鮮な気分で、逆にどこへ行こうと感慨は特にない。

 俺の実力を持ってすればどこへ行くのも近所へ散歩に行くようなもんだ。元人間の黒魔導士やゾンビたちの話しによれば、この大陸で物理的に一番危険なのは魔界だというから、ならば俺がこれから行く先は全部安全な場所ということになる。


 だから、服装もダークエルフに貰った黒い服と靴だ。

 見た目はアレだが、蜘蛛糸の毒染め布だから、防御力は下手な鎧よりも高いはずだ。でも、見た目がアレだから、だるだるの部屋着みたいな恰好で魔物蠢く樹海を歩いている姿は、世の中舐めていると思われるかもしれない。


 移動に手間はかけたくないので、ちょっと小走りくらいの速さで樹海を突っ切ろうとしている。飛ぶか転移魔法を使った方が早いけど、魔力がごちゃごちゃしている樹海の中なら、徒歩での移動が一番簡単なのだ。


「どけどけ、死にたくなきゃ近付くな」

 そう言ったって襲い掛かってくるのが樹海の魔物どもだ。避けられないほどのスピードは出していないのに、強者の気配を感じ取って、わざわざ自ら飛び込んでくるのだから、狂暴というか、たぶん強力過ぎる魔力のせいで頭がちょっとイカレていると思う。

 向かってくる魔物たちの相手をするのも面倒なので、円形の結界を展開して、立ち塞がるもの全て弾き飛ばして進んでいる。これで、この場が大陸一危険な場所というのなら、やはり俺に恐れるものはない。


 荷物は収納魔法でいくらでも持ち運べるが、そもそも服と魔王石の首飾りくらいしか私物がないから何も持ってきていない。今までも、寝床はそこらへんだし食料もそこらへんで獲ってたから、生活するうえで道具が何も必要ないのだ。


 そう考えると、もしかして、魔界の中でも俺は一位二位を争う野性的な生活をしていたのではないか。野ざらしで眠っていた獣人たちだって、最低限、草集めて寝床くらいは作っていた。文明化しろなんて、俺が命令できた立場じゃなかったかもしらん。

 いやでも、これからだ。これから頑張って文明人になっていけばいい。そのために人間界に向かっているのだ。


 持ち物はないけど、黒魔導士たちが人間界では魔物や力のある魔法使いだとバレると面倒に巻き込まれる可能性があると言うから、テキトウな革製のリュックは持ってきた。

 オーガたちが余りものの革で作ってくれた。形は前世で言うところのナップサックで、特に何の機能もないが、収納魔法がかかっているということにしておけば、物を大量に出し入れしても怪しまれないだろう。


 あとは赤い目を黒くして、縦長の瞳孔を丸くして、尖った耳の先も丸くした。幻覚魔法ではなく身体の形を変えているから、そんじょそこらの魔法使いにも見破られない。今の俺はどう見ても平凡な人間の子供だ。


 お供に連れてきたのはルビィとピーパーティンだけ、理由は単純に、鳥と猫の姿にしとけば魔物に見えないからだ。


 人間の方で魔界はどういう認識をされているのか知らないが、俺からすると今回の人間界遠征は完全に外国への旅行だ。こんなこと言っては烏滸がましいほど未熟な魔界ではあるが、一応、俺は魔王だから、この旅行は一国の元首がアポもとらずに勝手に隣国へ踏み込んでいることになるわけだ。

 俺は本当にちょっとした見学としか思っていないけど、罷り間違って軍事侵攻なんて言われたら堪ったもんじゃないので、強いやつを連れてくるのは止めといた。


 その点、ピーパーティンとルビィは立派な雑魚だ。例え魔物だとバレようとも、どれだけ素っ頓狂な勘違いをされようとも、絶対に魔界からの刺客なんて思われない愛嬌と間抜けさしかない。

 どちらも弱っちいからあまり役には立たないだろうが、役立たずでも話し相手くらいにはなるだろう。

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