63.
「シクランは沼地で工芸品の量産方法を考えろ」
「承知しました」
シクランもやる気はあるのか、麗しき美女の姿で立ち上がり礼をする。
沼地での工芸品作りはだんだんと実用性に特化してきている。最初に作ったのはどれだけの技術があるか見るためだったから、精緻な模様の入ったアクセサリーが多くなったが、当然のこと、現在の魔界に装飾品の類はほぼ必要ない。魔物たちが使う物と言えば武器くらいで、せいぜいが食器類を使うやつが増えてきた程度だ。
その上、力自慢のガサツな連中が使うから、道具に求められるのは美しさや繊細さなんかじゃなく、とにかく頑丈なことだ。あとは、どんな形状の魔物でも使えるように、道具はほとんどがオーダーメイドになる。いちいち装飾に凝ってはいられない。
だから、魔界で必要な道具を作れば自然と実用性重視になるのだ。
「ヤオレシアは布の量産方法を考えろ、あと沼地のやつらと協力して、樹海で工芸品に使えそうな素材を探せ」
「わかった、やってみよう」
ヤオレシアは考え込むように頷いた。既に素材候補を考えているのだろう。こいつは元からちゃんと村長をやっているので、この場ではシクランと並んでまともな行政を知っているやつだ。新しい事業には人手がいるが、村の今までの仕事の横で新事業の人員を割くのも、ヤオに任せとけばなんとかなるだろう。
それに、ダークエルフたちの衣類が魔界中にも広まりつつあるおかげで、沼地のゾンビたちの工芸品にも裁縫針だの鋏だの編み物用のかぎ針だのが増えた。それを使ってダークエルフたちの衣類のレベルも上がっている。細かい仕事のできるゾンビとエルフは思いの外良き仕事仲間になってくれた。
「ガンギランには石材探しを任せてるから、黒魔導士組合は巨人と協力して土俵の設計をしろ」
「全力で取り組ませていただきます」
黒魔導士のリーダーで蜥蜴男のシングーは相変わらず腰が低すぎる。ボス級の魔物たちに囲まれて腰が引けているので、常に土下座しているような状態だ。
山岳地帯の巨人たちは相変わらずのんびり屋だから、石材探しは牛歩ではあるが、見つかれば仕事は早い。なんせ巨人一人一人が優れた大型重機なのだ。ちょっと散歩する程度の労力で何トンもの岩をひょいひょい運搬できる。
問題は黒魔導士たちが山岳地帯へは近付くのも一苦労という点だが、一応、巨人たちにはたまには麓まで下りてくるように言ってあるから、たぶん岩場の雑魚どもも巨人と接触するくらいは出来るはずだ。
黒魔導士たちもなんやかんやでマイペースだし、魔術の研究は好きでやっているから、例え巨人たちに相手にされなくたって魔方陣の研究は勝手に進めるだろう。
「土俵を造るのか!」
土俵という言葉に嬉しそうな声を上げたのはクーランだが、遊びじゃないのだ。
「相撲するたびにあちこち壊されたら困るんだよ、物理結界と魔法結界と無限再生と、あと自動で治癒魔法発動したりできないかな、とりあえず一か所に多重魔法陣を描く研究をしとけ」
「かしこまりましてございます」
俺は投げ遣りに言ったが、シングーは俺の態度なんて気にせずに、既に多重魔方陣のことで頭がいっぱいになっている顔をしている。
俺も岩にいくつも魔法を込めるのはやってみようと思ったけど、自分自身で複数の魔法を同時に発動することは出来たが、それを魔方陣にして石材に刻もうとするとちんぷんかんぷんだった。魔法研究バカの黒魔導士組合に丸投げするのが正解だったらしい。
魔法研究に限らず、だいたいほとんどのことを子分に丸投げするわけだが、俺は魔王なので子分を顎で使っていいのだ。
「じゃ、俺がいない間に喧嘩ばっかりしてたら怒るからな、どれくらい留守にするかは決めてないけど、俺が帰るまでに結果出しとけよ!」
「「「「「無茶振り!?」」」」」
部下たちの元気な悲鳴と共に、第一回魔界五天王会議(一名欠席)は終了した。
ここで魔界開拓は一旦小休止、次回からは人間界編です!
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