60.
「ちょっと人間界見てくるから、留守番よろしくな」
記念すべき第一回魔界五天王会議の、魔王の第一声がこれだった。
ちなみに、例によってガンギランは欠席だ。会議と言っても、俺が生まれた岩場に各地のボスたちを集めただけだから、巨人を連れ出して座らせるスペースがなかったのだ。
ヤオレシアは作り直した正装で尊大に出席しているから、これはもう魔界一の引き籠りは巨人族ということになった。根暗の巨人族ならそんなことぜんぜん気にしないだろう。
俺は懐かしき生まれた場所、というほど感慨深くもない大岩の上にドンと胡坐をかいている。ここは割と頻繁に来るし、普段は平らな岩は作業台に丁度良いから黒魔術師どもの机として使われている。ここ先代魔王が作った玉座とか言ってたの黒魔導士どものくせに。
正面にいるのは老婆のようにちんまり座り込むシクランと、尊大に足を組んで座るヤオレシアだ。その後ろにクーランが仁王立ちして、ザランが行儀よく座っている。まだ序列なんてないから席順に意味はない。単純に、ザランはデカいしクーランは角が邪魔だから後ろにいるだけだ。
もっと後ろにはガルドやズーロや、ヤオレシアの嫁のマルウもいる。草原と森林はボスが会議向きのタイプじゃないし、ヤオレシアも結構すぐに熱くなる性格だから、不安なので副官の随行も許可した。たぶん、俺が言わなくてもこいつらは来ただろう。特にズーロなんて授業参観に来た親みたいな顔でクーランを見ている。
俺の方は副官らしいやつがいないから、一応、御意見番として猿爺さんのポロックを後ろに置いているが、既に居眠りを始めているので役に立たない気はする。王様としての格好付けで置いた宰相もどきだ。
あと、ついでに岩場の雑魚代表で蜥蜴男黒魔導士のシングーもいるけど、こっちもボスたちを前にビビり散らかしているから期待しないでおく。他の黒魔導士たちも岩陰にコソコソ身を寄せている。あいつらはここ以外に行く場所がないから、しょうがないので見学を許可した。
「人間界というと、山の向こうか?」
クーランが首を傾げている。オーガは強いやつにしか興味がないから、人間なんて弱い種族に興味を持ったことはないのだろう。それでも昔話くらいには、山岳地帯の向こう側に人間が住んでいると聞いたことはあるらしい。
クーランは最近ダークエルフとも仲良くやっていて、防火防刃の効果を付与した植物布の着物を貰ったそうだ。半袖短パンの甚兵衛みたいな服だから、ボスとしてはラフすぎる格好ではある。だが、ボスらしく蜘蛛糸の毒染めの衣装なんか着ても、やんちゃ坊主クーランは十日でボロ布にするから、大量生産できる服でいいのだ。
おかげで、相変わらずの相撲馬鹿だが、相撲をするたびにすっぽんぽんになることも無くなった。
「いいや、樹海の方、そっちの方が大きい国があるんだよな?」
「はい、五百年前まではそうだったと、確か~ドラゴンの遠縁のヘビに、あー……三百年ほど前に聞いたような……」
俺の声に答えてくれたポロック爺さんは、相変わらず物知りっぽいだけで情報はあやふやだ。
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