59.
「やっぱりね、金ってわかりやすいな」
興奮のあまり顔に押し付けられる勢いだが、これ持ってきたの俺だから、そんなに近付けなくても既に見てるから。
黄金だろうなとは思ってたけど、ここまであからさまだとちょっと不安だったのだ。
なにせ、鑑定魔法で見た金の成分色はそのまんま金色、模様はキラキラ表現によく使われる菱形だ。純度百パーセントだと、もう絵心がないやつが描いた金塊みたいな絵面になるから、本当にこれは高価なものなのか、見れば見るほどわからなくなってしまった。
しかし、これが金の鑑定結果で間違いないというなら、覚えておけば今後どこかで役に立つだろう。
ちなみに、銀の鑑定結果は見たことがある。沼地のゾンビに純銀の指輪を後生大事に持っているやつがいたのだ。そいつは死ぬ間際に指輪だけは奪われまいと飲み込んだという。そしてゾンビになって腹が腐り落ちたから、無事に取り出すことができたというわけだ。
どうせ腐肉の塊の持ち物だ。糞と一緒になっていたとしても、ちゃんと洗ってあれば純銀は純銀。銀の鑑定結果は真っ青の菱形だった。
前世の俺はシルバーとプラチナの区別もつかなかったが、鑑定魔法ではプラチナは緑色で楕円形の模様だから、銀とプラチナの区別は一目瞭然なのだ。こういうところは鑑定魔法が使えてよかったとは思う。
ついでに、銅は紫色っぽい五角形の模様だというのだが、魔界にあった銅と呼ばれている金属は色々混ざっている物しかなかったから、ハッキリと診ることは出来なかった。
でも、とりあえず定番であろう金銀銅の鑑定結果は知れた。これからは沢山診て鑑定眼を鍛えていくしかない。魔法があっても、結局やることは前世の鑑定士と同じだ。
「こ、こ、こんな高純度の黄金が自然界にあるなんて……どこでこれを?」
あからさまに目が眩んだような顔で不躾に聞いてきた黒魔導士は、仲間たちにポコポコ小突かれて後ろに引っ込められる。他の連中も盗掘なんて考えてませんよ~みたいな笑顔で誤魔化さなくたっていい。
「山岳地帯の奥の方」
すんなり答えた俺に、黒魔導士どもはみんな諦め顔になった。こいつらは本当に何も隠す気が無くて清々しい。
金塊を見れば目の色を変えるやつも出るだろうとは思っていたが、岩場の雑魚の一員だった黒魔導士組合なら、死ぬ気で挑んだって山岳地帯の麓でリタイアするだろう。金を掠め取って人間界に逃げようなんて考えても、一獲千金なんかそう簡単に叶うわけがない。
逆に、あの山岳地帯を自力登山できる強者なら、金塊如きで目の色を変える必要はない。力が全ての魔界では金なんて価値はない。魔界で不自由なく暮らせるやつには不要なものなのだ。
だから俺はこんな無警戒に金鉱山の発見を報告している。黒魔導士どもは魔界の中では一応頭脳派なのだから、多少の腹芸を覚えてほしいもんだ。
だが、黒魔導士たちの反応で、この世界でも金の価値は高いということは確定した。
硬い石の方は、グラニートだかグラナットだか、聞いたことがあるようなないような石だった。元より石の知識はほぼないし、金銀銅は通じたけれど、前世と石の名前が一致するとも思えないから、名前はもうなんでもいい。
とりあえず、この石の鑑定結果を元にして、黒魔導士組合にも魔界にある石や金属の鑑定を進めるよう命じた。
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