56.
「そういえば、流れで祭りになっちゃったから、なんか巨人たちのこと仲間外れにしちゃったみたいでごめんな、あんなことなるならおまえらにも声かけときゃよかったよな」
「そうか」
俺はとりあえず謝っておいたが、ガンギランはぜんぜん気にした様子はない。気にするどころか、さっきから反応が特にないけど、こいつはいつもだいたいこんな感じだ。
たぶん、本当にぜんぜん気にしていないのだろう。相変わらずガンギランは岩山の中で体育座りしている。俺は地面にいると声が届くのかもわからないから、ガンギランの膝頭の上に体育座りしている。
そして、俺がここに座ってから、かれこれ半日くらいガンギランは動いていない。周りは灰色の岩だらけだし、今日は雲が低いので眼下を見ても雲海しかない。それも綺麗な景色ではなく、ただ白い靄がかかっているだけだ。
もう座っているだけで仙人になった気分だ。本当に考え事には打って付けの場所だが、ずっといたいとは思えないのが山岳地帯だ。そんな場所にずっといて平気なのだから、ガンギランは明らかに行事ごととか人付き合いとか面倒臭い根暗タイプだ。
久しぶりに山岳地帯にやって来たが、巨人たちの進捗はいつも通りのんびりだった。
でも、サボっているわけではないから、一応報告は受けたが、なんかすごい硬い岩をいくつか見つけたのと、金色の砂が出るところを見つけただけだ。
いやとんでもない発見である。
ガンギランの今日の第一声が「特に何もないからまたそのうち来い」だったけど、何言ってんだおまえというような報告が飛び出してきた。サボってないかの確認のためにも、念の為進捗を聞いておいてよかった。
金色の砂とは、つまり砂金だ。
俺には岩石を鑑定する眼も知識もないから、粒をいくつか持っていって黒魔導士や沼地のゾンビに見てもらうつもりだが、たぶん黄金で間違いないだろう。
しかも、巨人たちから見て砂くらいの大きさだというだけで、実際は俺の拳ぐらいの金がゴロゴロと岩壁に埋まっている。ぜんぜん砂金じゃない。もう金塊の山だ。
発見場所は山岳地帯の中でも特に標高の高い山々の間、たぶん人間だったら酸素ボンベがないと辿り着けない場所だから、誰にも見つからずにいたのだろう。魔物だって山の魔力が強過ぎて近付けない場所だ。
そんなわけで、俺は金塊を抱えて、魔界の今後を憂いていたのである。
「これで魔界は大金持ちだなハハハハハ」
この世界での物の価値はまだよくわからないけれど、金に価値がない世界なんてまずないだろう。
「どうしたもんかいのう……」
問題は俺に金融の知識がぜんぜんないことだ。ぜんぜんわからないけれど、前世の乏しい知識を搔き集めると、国として未熟な小国はズル賢い大国に良い様に踊らされて金を奪われるのだ。たぶん。
どうやって踊らされてどうやって奪われるのかはわからないけど、前世の俺が生まれた国でも、開国するころに外国に金をじゃんじゃん奪われたというのは学校で教わった。教わったのは覚えているのに、詳しい内容は覚えていない。なんか為替だとかレートだとかもニュースで観た覚えはあるけど、俺はぜんぜんわからない。
前世の俺は覚えている限り、アルバイトとか平社員とかで専門的な職業に就いてなかった。学校も極々平凡な一般校で、大学は一応経済学部だったはずだけど、大学くらい出てないと就職できないよな~くらいのノリだったから、三流大をギリギリ卒業できるくらいの学力しかなかったはずだ。
「うわ、俺マジで戦闘力チートの頭脳ゴミカスじゃん……」
「そうか」
俺が絶望して膝の上に大の字に引っ繰り返っても、ガンギランはぜんぜん気にせずに座っているだけだ。
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