52.
「この貝、自分たちで育てて増やしたり出来るかな? ほら、穴掘って砂利敷き詰めて池作ってさ、その中でいっぱい増やしたりさ」
俺が身振り手振りで養殖水槽みたいなものを説明すると、シングーと後ろにいた黒魔導士どもも難しい顔で考え込んだ。
「それは、どうでしょうか……これも獲ろうとすると飛び跳ねて襲ってきますし」
「あまり近い場所にいると共食いを始めます」
「あ、やっぱこれも魔物なのね」
貝は大して動かない生き物、なんて知識は魔界では通用しないらしい。
ちなみに黒魔導士たちがどうやって貝を獲っているかというと、砂利の上に網や布を広げて、土魔法の使えるものが砂利の中を掻き回して、飛び出してきた貝を一網打尽にしているという。
話しを聞いている獣やオーガたちは、こんな小さくて弱いものになんでそんな手間をかけるんだ? と言いたげな顔をしているが、弱っちいぶん頭を使うのは俺は良いと思う。文明は弱者から生まれるのは前世も同じだった。
貝も大人しくはないから養殖は難しそうだが、岩場の雑魚でも捕獲できる獲物だし、美味しいし、他の使い道も多いから、貝漁の効率化も考えてみよう。頭の片隅にメモしておく。
土俵の中では小さい魔法も打ち尽くしたのか、ザランの炎もヤオレシアの風もだんだんと弱くなっている。
小さいと言っても最初の威力が異常だったから、それと比べれば小さいというだけで、後の火の玉も風の刃も強力な攻撃魔法だ。岩場の雑魚相手だったら一撃で十匹は即死する。
そんなものをバカスカ撃ちまくっていたのだから、どれだけ強いやつでも魔力切れを起こす。
このまま双方魔力切れで引き分けだろうか、と思ったら、試合はそのまま殴り合いにもつれ込んだ。
「どっちも粘るな~」
まあ何でもありの魔界相撲なのだから、魔力が切れたからって負けを認める必要はない。普通は体内魔力が無くなれば体力も無くなって動けなくなるはずだが、ザランもヤオレシアも流石は長を名乗るだけあってタフだった。
肉弾戦だと図体の大きいザランが有利だ。なにせ猫パンチ一発でも当たれば大ダメージである。しかし、案外とヤオレシアも戦えるようだ。猫パンチに吹っ飛ばされても土俵内で踏み止まって、攻撃を回避しつつ関節や目など急所を的確に突いている。
「やれーザラン!! 一気に叩け!!」
「負けんなヤオ!! そこだ!! ぶち込め!!」
やんやと熱くなっているのは戦闘狂のオーガたちだ。さっきまでの魔法戦はお祭りムードで眺めていたのに、殴り合いになった途端、暑苦しいくらいの歓声を上げている。
ついでに、スケルトンたちも盛り上がっているらしい。土俵外の一角で、カタカタカタカタ騒々しく骨たちが跳ねまわっている。その中をカラーストーンや金貨のようなものも跳び回っているから、もしかして奴ら賭けをしているのではないか。
「スケルトンって、意思疎通できるのか?」
「スケルトン同士の言語があるのです、今はダークエルフの方が人気ですわね」
やっぱり賭けをしていた。シクランは骨たちの言語がなんとなくわかるらしい。盛り上がり過ぎて骨同士の乱闘も起きているようだが、シクランはシレっと放置している。
俺も別に賭博も乱闘も規制する気はない。なにせ魔界だし、倫理観はこれから育んでいくつもりだし。
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