51.
「でも今回の目的は因縁を断つことなのでしょう? なら相撲で勝つよりも全力を見せる方がいいのじゃなくて」
ルビィが珍しくまともなことを言っている。
今は姿を変えているのに飽きたのか、セクシーオネエチャンの姿をしているが、肉を豪快に貪っているので残念な美人だ。相手の好みに合わせて姿を変えられるサキュバスだが、ルビィの真の姿はこの人間でいうと二十代くらいの女性の姿らしい。
確かに、相手を土俵から出してルール上は相撲に勝ったとしても、姑息だの陰険だのと言う偏見はなくならないだろう。
でも、それを言ってしまうと、そもそも決着付けるのに相撲を選んだ俺の失策じゃん。
「ま、二人が全力出してスッキリできたらいいよね」
そういうことにしておいて、俺は魚の串焼きに齧りついた。森林地帯で食べた海の魚は美味しかったが、草原地帯で獲れる川の魚も美味しい。見た目は鮭に似ているが鋭い牙と刺々しい尾びれがあるから、たぶん魔物なのだろう。棘も焼いたら食べやすくなって美味しい。バリボリ食べられる俺の口も頑丈なのだろう。
森林地帯と接している海の方は、海の魔物の国だというから大規模な漁はできない。だから、魚介類についても川や沖で養殖を考えた方がいいのだろうが、如何せん、例の如く俺に知識がない。今は畑と牧場で手一杯だから、当分は川や沖で細々と漁をするしかない。
「お、貝じゃん、これはどこで採れたやつ?」
焼いた肉の横にちょこんと焼いた貝が添えられていた。ホタテのように平たい貝殻だが、中身はシジミかハマグリみたいな形だ。やっぱり味付けは塩のみだが、じゅわじゅわだし汁が出ていて美味い。
「草原地帯の川で獲れるものです、砂利の多い浅瀬によく埋まってます」
手もみしながら教えてくれたのは蜥蜴男のシングーだ。なんでそんなに得意気で、新商品を売り込む営業マンのように手もみを繰り返しているかというと、強者のおこぼれを貰って生き延びている弱小の黒魔導士組合は、今のところ食料について成果を上げることができないからだ。
初めて食えるもので俺に報告できるものが見つかって、得意になって俺に売り込みに来たらしい。これじゃあ俺が食い物にしか興味のない食いしん坊みたいだが、今は食糧需給が魔界の喫緊の課題なのだから仕方がない。
「へえ、こんなのいたんだ」
「知りません、そんな小さい物、わざわざ探すこともないですし……」
当の草原地帯を縄張りとしている獣たちは、食える貝の存在などぜんぜん知らなかったらしい。そりゃあ、獲物狩って食っていけてるやつらは、わざわざ砂利掘ってまで食い物探す必要はないだろう。草原でイモや根菜類があまり知られていないのと同じだ。
弱いからこそ地味な食糧を知ってるな、と言われたシングーは得意気だった顔が瞬く間にしおしおになる。しかし、売り込みの手は緩めない。弱い上に根性まで無くなっては魔界では生き残れない。
「この貝は中身は食べられますし、貝殻も道具として使えます、殻を焼いて砕いて粉にしたものは魔術にも使われます」
なるほど、前世でも貝殻を粉にしたものは石灰とかいって、畑の肥料や石鹸の材料になっていたはずだ。
石鹸は他の材料がわからないので置いとくとして、肥料としては石灰をそのまま畑に撒くだけだったはずだから、すぐにでもできるはずだ。
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