48.
「このイモは樹海で育ててんの?」
「育てる? それはどこにでも生えているイモです」
ダークエルフの話しでは、特に名前のないイモは樹海のどこにでも生えていて、根を引っこ抜けば必ずイモが付いているというなかなか都合のいい食材だそうだ。ダークエルフも農業をしていないのは、こんなあまりに便利な植物があるせいかもしれない。
「他のとこでも生えてるか?」
他の奴らにも聞いてみるが、みんな熱々のイモを食いながら首を傾げている。
「草原にはないな」
「根っこも食える草はあるけど」
草原の獣たちは珍しそうにイモを食べている。
草原にある根っこも食える草は俺も食べたことがある。ごぼうと人参の中間くらいの味で、これまでは専ら草原地帯の弱い連中の非常食だったらしい。食える植物ということで、草原地帯の畑で目下栽培試験中だ。
しかし、言われてみれば草原地帯でイモらしきものは食べたことがなかった。前世の乏しい知識だと、ジャガイモとかは乾燥した地域で栽培していたような気がするが、サバンナみたいな草原地帯にイモ類はないのだろうか。それともまだ見つけていないだけだろうか。
今後、食える植物探しは根っこまで探させよう、と改善箇所を頭にメモしとく。
「森林にもイモはあるけど、形がぜんぜん違うな」
「もっと長くて大きい、今の時期は採れないけど」
オーガたちはイモを食べたことはあるが、今食べている丸くて小さいものがイモだとは思わなかったらしい。
確かに、森林地帯でもイモらしきものは食べたことがなかったけど、こちらは収穫時期じゃなかっただけらしい。ハウス栽培どころか農業がそもそもなかった魔界だから、当たり前だが植物系は旬のものしか食べられない。
「森林地帯のイモはいつ頃採れるんだ?」
「暑くなる少し前っすね」
「ざっくりしてんな~」
まあ、暦すらないのだから感覚的な表現しかできないか。前世でも暦が生まれたのは農作業の目安を測るためだったはずだから、農業のなかった魔界に暦がないのも道理だ。俺自身まだ0歳だから、魔界の季節がどうなっているのかも良く知らない。
食える植物の収穫時期の聞き取り調査もさせるべし、脳内メモメモ。
「樹海のイモは年がら年中採れるのか?」
「はい、だいたいいつもありますね」
ダークエルフたちは虫まで焼き始めた。いよいよ謎の奇祭らしさが増してきた。
でも、串刺しにされた拳大の芋虫が焼かれる光景を見ても、他の地域の連中はなんとも思っていないようだ。そりゃあ、弱いやつなら何でも食ってしまう弱肉強食の魔界だったのだから、虫系の魔物を食べることはあるだろう。弱いやつは虫食ってでも生き延びていただろうし、今更芋虫の丸焼きくらいでビビるやつはいないか。俺はビビったわけではなく、ただ虫の味があまり好きじゃないだけだ。
森林地帯と樹海ではイモの種類が違うことはわかった。
森林地帯のイモも気になるが、いつでもどこでも生えてるという樹海のイモは非常に興味深い。樹海のイモが他の地域でも育つか検証する価値はあるだろう。もしかすると魔界の食糧事情を一気に改革出来るかもしれない。
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