46.
これでは魔法を放った本人もダメージを受けるだろうに、いつまでも火柱は治まらないし、それどころか更に大きく燃え上っているから、どうやらザランもヤオレシアも炎に巻かれながらも魔法の威力を上げていっているようだ。
「ザラン様……」
「ヤオ様……」
獣側もダークエルフ側も流石にボスの安否を心配している。炎は赤から黄色、白へと変わっていっているから、中の温度もどんどん上がっていっている。
「大丈夫だ、どっちも生きてる」
俺は結界内にザランの気配もヤオレシアの気配も見つけていた。視界はなくとも二人ともしっかりと立っている。そもそも、魔法が発動されっぱなしなのだから、どちらも負傷を恐れるどころかヤル気は昇りっぱなしだろう。
俺の言葉に獣もダークエルフも安心したようだが、今度は炎を見上げて呆れた顔になっている。確かに自分の被害も考えずに力をぶつけ合うだけの戦い方は馬鹿みたいだが、煌々と燃え上る炎に照らされ獣とエルフの唖然とした顔が並ぶのも、なんだかシュールな光景だ。
「え、クーランは?」
「あれヤバない?」
戦闘バカのオーガたちも、この派手な炎の渦にはたじたじだ。
しかし、そうだ、審判のクーランもさっきから炎の中から出てこないのだが、やつもピンピンしている。
「あいつも平気だ」
クーランはむしろ対戦中のザランとヤオレシアよりも活発に炎の中を駆け回っている。あいつの場合、審判としての責任感よりも、このド派手な戦闘を間近で見られることに大喜びしているのだろう。
「え、馬鹿じゃね……?」
「流石に馬鹿だな」
オーガは強いやつがボスになるルールだから、割と頻繁にボスが入れ替わる。だから、ボスになる頻度が多いからと言ってクーランを崇め讃えるやつはいない。
今、クーランは審判なのだから別に土俵の中に留まる必要はない。試合を見極められるなら土俵外から見ていたって良いのに、わざわざ炎の中に留まっているのは戦闘を間近で見たいというクーランの趣味だ。戦闘狂もここまでくるとオーガにもドン引きされるらしい。
「暑い……」
これは完全に両者ムキになっているな。相手が魔法を引っ込めるまで自分も引っ込めまいとどちらも考えている。結界で炎と熱風は防いでいるけれど、防ぎきれない熱がじわじわ伝わってくるから、土俵の周りも次第に暑くなってきた。
俺のぼやきが聞こえたのか、単純に本人が熱かったからか、シクランが冷気を放出して周囲を冷やしてくれる。幽霊製の冷気だからゾワゾワ怖気が立つのはご愛敬だ。
それにしても、炎が凄まじ過ぎて土俵の中が何も見えないから、相撲観戦というよりキャンプファイヤーをみんなで囲んで眺めているような状況になっている。燃える炎ってなんか眺めちゃうよな、でも相撲観戦としては変わり映えのない光景にだんだん飽きてくる。
そう思ったのは俺だけではなかったようだ。
「この熱さ……肉焼けるんじゃね?」
どこからともなくそんな声が上がった。肉が大好きなのは草原の獣だが、ボスが死闘を繰り広げている時にそんな暢気なこと言うやつがいるだろうか、いるな。
さっきまでは生肉か干し肉を齧るだけだったが、獣人などは生よりも焼いた肉の方が好きらしい。俺も腹は壊さないとはいえ生肉を貪るのは遠慮したいので、肉を焼くのは大賛成だ。
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