44.
「それでは先鋒前へ」
魔界流相撲に審判を置いたのは初めてだが、クーランはルールも結構適当な試合にそれなりに審判を務めている。相撲と言っても「はっけよーい」とか「のこった」とかの掛け声は使ったことがない。俺も意味をよく知らないから、使いどころがよくわからなしな。
土俵内には狼っぽい魔物とダークエルフの下っ端が向かい合って立っている。たぶんどちらも若手なのだろうが、獣もダークエルフも年齢はよくわからない。獣の方は毛並みがつやつやしているから若そう。ダークエルフの方は武器はデカいが服装が一番地味だから若そう。
「よーい、始め!」
クーランの掛け声と共に両者はぶつかり合い、土俵外が大いに沸き立った。
獣とダークエルフ以外はどちらを応援しているのかわからない。特にスケルトンなんて喋らないから応援しているのか、ただカタカタ踊っているのかわからないけれど、おそらくは大いに盛り上がっているのだろう。意外と血の気の多い連中なのかもしれない。血通ってないけど。
さて、クーランが普通に一回戦の出場者を先鋒と呼んでいたが、団体戦での順番を弱い方から先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と呼ぶのは剣道だったはずだが、相撲でも使っていいのだろうか。
どうせ前世の知識だからどうでもいいし、相撲と言ってもなんでもありの魔界流相撲に正しい用語などあるわけがない。ただ、意外だったのが草原の獣もダークエルフも年齢で順位が決まっているっぽいことだ。
ハッキリとした年齢などわからなが、中堅や副将になると見るからに歴戦の戦士、脂ののったイケオジ、ハリツヤはないが渋さはある、そんな外見だから、たぶんオッサンだ。
ダークエルフの方は年功序列がありそうだが、草原の獣なんて弱肉強食を旨としているから年功序列なんてないと思っていた。でも、長く生きているということは、この弱肉強食の魔界を生き残ってきたということ。草原でも中年=強者と考えて間違いないのだった。
その観点から言えばダークエルフの方もただの年功序列で順位が決まっているわけはない。エルフは長命だから長生きの長さも半端なく、それだけ経験値もあるわけだから、やっぱり年長者は自ずと強くなるのだろう。
最初の四戦は順調に、すぐに終わることはないが長引くこともなく、見ごたえのある試合になった。
だいたいは獣側が優勢だが、ダークエルフも健闘した。獣人が相手ならば良い試合になるし、四足歩行の獣相手だと苦戦するが武器を駆使してなかなか粘る。
結局、部下の試合は二勝二敗で、決着は順当にボス戦にまで縺れ込んだ。
ここまでくると草原の獣だけじゃなく、他の連中もダークエルフを見る目が変わっていた。ダークエルフの表情からも敵意が薄れている。
「うん、良い試合だな」
俺は酒を飲みながら上機嫌だ。相変わらず果実酒は酸っぱいし、肴は木の実くらいしかないけれど、樹海にある香草類やダークエルフの調理技術が魔界に広まれば、もっと美味しいものが食べられるようになるはずだ。
着実に見えてきた魔界の完全統一の日を前に、俺は上機嫌で酒を乾しつつ観戦する。
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