42.
「こんな楽しい祭りにどうして俺たちを誘ってくれなかったんだ!」
「祭りじゃねーからだよ」
オーガたちはいつも通り暑苦しい。クーランが地団太を踏んで試合に参加できないことを悔やんでいる。完全に相撲大会だと思っているようだが、これはあくまでも獣とダークエルフの禍根を断つための会なのだから、参加者募集なんて端からしていない。悔しがられても困る。まあ、酒と食い物を持ってきたので観戦くらいは許してやる。
しかし、まあ、このバカ騒ぎも悪いだけじゃない。
こんなに魔物が集まったということは、魔界での噂伝達速度が格段に向上している。つまりは魔界の中での縄張り意識が薄れているということだ。
特に岩場にいたどこの群にも入れなかった雑魚どもが、俺の威を借りてあちこち行けるようになったから、今まで踏み込めなかった森林地帯や山岳地帯もよくフラフラしているらしい。山岳地帯は麓をうろつくのが精一杯みたいだが、そのおかげであちこちに話が伝わるのが速くなった。雑魚の徘徊も意外と役に立つもんだ。
この調子で魔界の一体感が強くなっていけばいいのだが、今回は主役が引き籠りのダークエルフだ。こんなに多種族が集まっていて出てきてくれるだろうか。
急ごしらえで会場らしきものが出来上がったころ、俺の心配も杞憂に終わって、ダークエルフたちは堂々と現れた。
やはり、このお祭り騒ぎに一瞬身じろいだ様子だったが、森から一歩踏み出したヤオレシアの顔には「舐められてたまるか」と大きく書いてある。やり過ぎかと思った焚き付けが功を奏したらしい。
ダークエルフの下っ端どもは様々で、初めて見る樹海の外の魔物どもに興味深々のやつもいれば、ちょっとビビっているやつもいる。
あとは戦闘員じゃないやつらも来ている。というか、たぶん村の若者はみんな出てきてるようだ。
「ずいぶん大所帯だな」
「有志を募ったらみんな行きたいって言い出しまして」
苦笑いで答えてくれたのはたぶんヤオレシアの弟だろう。相変わらずダークエルフの見分けは苦手だが、ヤオレシアの隣で参謀みたいな顔してるし、長の次に派手な格好をしているからたぶん弟だ。
確かに、ダークエルフ側からは獣と戦いたいものが多いから、ボス戦の一試合だけでなく、四試合くらい増やせないだろうかと打診を受けていた。草原の獣たちも戦いたいやつが多かったから、俺も軽くOKしたのだが、まさかここまで大勢で来るとは思わなかった。
曰く、ヤオたちも当初は戦闘員の中から厳選して遠征隊を組もうとしたらしいのだが、戦闘員の中でも枠の取り合いが勃発したうえに、非戦闘員からも同行希望者が殺到したという。それで仕方なく希望者の中で成人してるやつはみんな連れてきたそうだ。
むしろ、村の警備も必要だから戦闘員の半分は村に残っている。草原に来たのは非戦闘員の方が多いくらいだ。
ダークエルフたちもなんやかんや言って、みんな樹海の外に興味があったらしい。完全に戦闘員より観光目的の同行者の方が多いから、禍根を断つための一戦とは名ばかりのお祭り騒ぎにしてしまった俺たちとは同じ穴の狢だ。やはりダークエルフも魔界の一員である。
それに、せっかく樹海の外に出るからと最大限の正装をしてきたのだろう。ダークエルフたちの派手な衣装に、草原の獣もオーガも興味津々だ。特にシクランはいつも死んでいる目を輝かせている。彼女はきっとお洒落が好きだろうと思っていた。
やけっぱちの相撲大会だったが、これは思いの外いい感じなのではないか。流石は俺。
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