40.
俺は草原を後にして樹海に入った。
きっと嫌がるだろうなと思ったヤオレシアにも話を持っていくと、案の定、ものすごく嫌な顔をした。
「なんでも力で解決しようとする蛮族めが」
相撲で決着付けようと決めたのは俺だが、蛮族と呼ばれても反論できない。今日の俺は起きてからしたことと言えば、革で魚を採り焚火をして、樹海で食えそうなネズミを捕って来て、ヤオん家の囲炉裏で丸焼きにしているだけだ。
寝ることと狩ることと食うことしかしていない。俺もすっかりワイルドな生活に染まっちまったもんだ。
「でもおまえ獣と話し合う気ないだろ?」
「ない」
おまえも結構蛮族じゃねえか、と思ったけれど、臍を曲げそうだから黙っておく。
皮を剥いで焼いただけのネズミは毒があったみたいだが、前世の猫くらいの大きさがあって食いではある。そもそも魔王の俺に毒は通用しないのだ。むしろピリッと刺激的で悪くない。手土産にヤオレシアの分も獲ってきたが手を付けようともしない。毒があると知っていたなら言えよ。
「おまえらだって、いつまでも他の奴らに舐められてるのは嫌だろ?」
焚きつけるために言ってみたが、ヤオレシアは怪訝な表情になった。
「我らが舐められているだと?」
そこからか。ダークエルフは引き籠りだから外の連中にどう思われているかも知らないのか。今日はヤオん家に他に家族もいないようだから丁度良い。
「弱いから森の中に隠れ住んでるって言われてるぞ」
俺はニヤニヤ笑いながら教えてやる。まあ、草原の獣たちの意見だから、ゾンビとかオーガたちがどう思っているかは知らない。なんなら、オーガとかはダークエルフの存在すら知らない可能性もある。ヤオだってオーガのこと知らないかもしれないし。
「なんだと」
わかりやすく不機嫌になったヤオレシアに、俺はしめしめと内心作戦の成功を確信する。相手をキレさせて喧嘩させるだけだから作戦とも言えないけど、作戦らしい作戦もなかったからちょっと心配だったのだ。
「陰険ヒョロガリと思われてるぞおまえら」
ヤオレシアの顔が鬼の形相になる。綺麗な顔だから余計に恐ろしい。火の傍にいるのに室温が下がったように寒気がする。
でも、俺は魔王なので他者を恐れることなどないのだ。
「ちょっと魔法使えるだけの小賢しいやつだと思われたままでいいのか?」
「愚かなケダモノどもめ、目にもの見せてくれるわ」
案外チョロかった。こいつはやはり文明人の顔をした野蛮人だ。ヤオレシアが特別喧嘩っ早いだけでダークエルフ全体がこんなだとは思いたくない。
さっきまで寒気がしていた室内は、今は怒りにメラメラ燃えるヤオレシアのせいでちょっと暑いくらいだ。ここはヤオの魔力の影響を受けやすいらしい。
最強の俺は別に平気だから、ネズミの丸焼きを食い終わって茶をしばいている。相変わらず渋い茶だ。
しかし、和解を目的とした相撲なのに、こんなに焚きつけちゃったら本末転倒だったかもしらん。まあ、なるようになるだろ。
そんなこんなで話し合いの代わりに、因縁を払拭するため、できれば親睦を深めるためにも、草原の獣対樹海のダークエルフの取り組みが決まった。
ここまでは俺の目論見通り。
だがしかし、俺の想像を超えて、それは結構な相撲大会になってしまった。
当所、ザランとヤオレシアに一試合させて、互いの健闘を湛え合って和解する、というちょっとした親睦会程度を考えていた。めちゃくちゃ喧嘩腰にしてしまった詫びに、試合の後に宴会も開いてやろうと思い、岩場の雑魚どもに食料を集めるように命令しておいた。
その命令がいけなかったらしい。
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