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39.

 俺はさんざん悩んだ末、解決策を編み出した。


「相撲で決着を付けよう」


 朝飯の魚を齧りながら宣言する。特に聞いているやつは誰もいない。朝飯と言っても今が何時かもわからない。俺が起きたから今が朝なのだ。


 魔界には当然のこと時計なんてないから、だいたい昼間行動するやつは日の出とともに起きて日の入りと共に眠るし、夜間行動するやつは日の入りとともに起きて日の出とともに眠るだけだ。

 俺は昼でも夜でも行動できるし、ぶっちゃけ体力無限だから眠る必要も本当はない。ただ、前世の習性が残っているせいか、出来れば夜は眠りたくなる。でも生活習慣をとやかく言うやつなんていないから、寝たいときに寝て起きたいときに起きているから、こうして目が覚めた時にはみんな働きに出ていたということもよくある。魔王の眠りを妨げないという気遣いができる良い子分たちである。


 そうして、俺は一人で勝手に川で魚を採り、焚火で焼いて、自力で朝食を作りながら民族間抗争の解決策を編み出したわけだ。

 編み出したというより、これしか方法が浮かばなかった。

 いつもの相撲である。


 失念していたが、ここは魔界だった。

 そして俺は魔王だった。

 魔界の王は俺なのだから、俺が魔界のルールだった。そして魔界なのだから、話し合いと言わず暴力で決めるのが正攻法だった。

 いずれは平和な国を築きたいとは思っているが、いずれである。いきなり野蛮な魔物どもに話し合いで解決しましょうなんて言ったって解決するわけがなかったのだ。別に説得が面倒臭くなったわけではない。


 というわけで、まずは言うことを聞きそうなザランに話を持ち掛ける。


「ダークエルフの長と相撲をしろ」


 今日も今日とて、ザランは草原の見守りという名のお昼寝をしていた。

 俺が近付けばむくりと上体は起こすが、立ち上がりはしない。今日の草原は試験農場を作っているので、チビが好き勝手遊び回っていてもそれほど危険はない。


 試験農場と言っても、大型の魔獣がわっさわっさと掘り返した場所を、小さい魔物たちがちまちまと整え、集めてきた食える植物の種を植えているだけだ。

 一応、どこが畑かわからなくならないように木の棒を点々と立てて柵も作っているけれど、全て手作業の畑作りは子供の農業体験よりも拙い。しかし、仕方がない。農業は長年の積み重ねなのだ。と前世で聞いたことがある。まったくノウハウがない魔界では一歩ずつ経験を積み上げていくしかない。


「よかろう、しかし勝負にならんかもな」


 俺が来たから最低限起きて挨拶しただけのザランは、挨拶がすめばすぐさまごろりと寝直した。大変舐め腐った態度であるが、ザランが舐めているのは俺ではなくダークエルフのことだ。歯牙にもかけないを全身で表現している。

 話し合いはあれほど渋ったくせに戦いとなると途端に素直になった。さてはザランは話術には自信がないな。まあ、今までの魔界では力こそすべて、話し合いなんか求める相手はプチッと潰して終わりだったから、話術なんて何の役にも立たなかったのだろう。


 しかし、これからの魔界には知性も必要なのである。解決策に相撲しか思いつかなかった俺が言えた義理ではないが。

「おまえね、見た目だけで俺を舐めきってボロ負けしたの忘れたか」

 ザランは都合の悪いことは聞こえないらしい。ぎくりと顔を引き攣らせたが、何も聞いていないふうに優雅に岩の上で寝返りを打つ。昼寝している姿にも威厳があるのだからライオンの見た目は羨ましいもんだ。


 でも、草原の獣たちはボスである俺の言うことは基本聞く。俺が何も言わなくても畑作りは勝手に進んでいるし、とりあえず相撲はしてくれるだろう。

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