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37.

 俺は草原に戻ってもう一度ザランと話してみた。

「ダークエルフとさ、一緒に飯食ってみない?」

 コロコロと転がる獣の赤ちゃんたちを抱えながら、それとなくさり気無くなんでもないようなふりをして訊いてみる。


 ちなみに抱えているのは数日前に生まれたばかりという猪の子供たちだ。たぶんレットボアとか呼ばれそうな、大きな猪の魔物の子供だから、赤ん坊でも大きさは大型犬くらいはある。

 でもウリボウだから丸いし足は短いし牙もない。まだ歩くのも不器用で転がってばかりいるので、俺が抱えてやっている。五匹もいるから全部は抱えきれない。コロコロ転がり出ては引っ張り戻し、また別のが転がっては引っ張り戻すを繰り返している。

 なんか最近、俺はガキのお守りばっかりしているような気がするが気のせいだろう。まだまだ魔界が発展途上過ぎて、俺の強大な力を使う機会がないだけだ。力を温存している俺の周りに、ガキどもが勝手に集まっているだけで、断じて子守しかやることがないわけではない。


「ダークエルフを食うのですか? あれは骨と皮しかなさそうだが……」

「ちげーよ、ダークエルフと飯を食うの」

 本気ですっ呆けるザランに再度言い直してみれば、本気で嫌そうな顔をする。今日は珍しく寝っ転がらずにおっちゃんこしている。たまにウリボウ集めに前足くらいは貸してくれるから、ボスとしてガキに威厳のある姿を見せているつもりなのだろう。


 確かに、ダークエルフどもの御馳走は絶対に草原の獣たちにも不評だろうが、ダークエルフを草原に招く方向で、獣側に宴席を用意させれば何とかなるのではないか。

 いや、ならんかも知らん。俺はちょっと考え直す。

 ダークエルフの味覚がどうなっているかはまだ未知数だが、草原の串刺しの獣とかが業火に焼かれているような宴会を、ダークエルフがどう思うかもわからない。見てくれだけは高貴なふりをしているヤオレシアは、絶対に野蛮だなんだと言い出しそうだ。


 そんな俺の考えを肯定するように大きな魔物が吹っ飛んでくる。今日は戦闘訓練という名の、やっぱり相撲をしているので、さっきからボロ雑巾のようになった魔物が良く跳びかっていた。まさに野蛮の見本のような光景だ。

 俺はウリボウを邪魔にならないところに寄せつつ見学している。こいつらの親も絶賛訓練中だ。大猪だから突進力はなかなかのものだが、助走がなければ力を発揮できない。その助走が無くても攻撃できるようになりたいと息巻いて土俵に立っている。


 訓練で揉まれているのは岩場にいた雑魚どもだ。あいつらもいつまでも雑魚なだけでいさせるわけにはいかない。でも、まだぜんぜん雑魚だから、よく跳んでくる雑魚がウリボウにぶつからないよう、結界の中にウリボウどもを寄せ集めるのはなかなかの重労働だ。ただ丸い毛玉をもふもふしているわけではないのだ。せっかくもらった黒い服がすっかりウリボウの毛塗れになってしまう。

 草原の獣対岩場の雑魚では、相撲というより一方的にサンドバックになっているけれど、これはこれで打たれ強さを鍛えられるから役には立つだろう。相撲だから死にはしない。岩場の雑魚どもも逃げ足だけは自慢できるから、本気で死にそうになったら土俵外に逃げ出す。


「ダークエルフって草しか食わない雑魚じゃねっすか?」

「雑魚はおまえだ」

 小鳥の姿で結界の中にいたピーパーティンを掴んで土俵へ投げ入れる。ちゃっかり訓練を回避しようとしていたようだがそうはいかん。


 確かに、ダークエルフの主食はイモや草だが、やつらは調理をするのである。干し肉などを作る食品加工の技術もある。少なくとも、獣たちのおこぼれしか食べていないピーパーティンなんぞよりは、ダークエルフたちの方がまともなものを食べている。土俵の中では怪鳥の姿になったピーパーティンがデカい鹿にけちょんけちょんにされていた。あれでよくも多種族を雑魚呼ばわり出来たもんだ。


 草原ではようやく農業らしきことを始めただけだが、作物を生産できるようになれば、調理や加工の技術だって必要になるだろう。

 基本的に焼くか煮るかしかない魔物どもに、調理という概念を教えたい。しかし、俺は前世でもズボラな漢飯しか作れなかった。つまり焼くか煮るしかできない。そのためにダークエルフを引っ張り出したいのだ。


 転がったウリボウを結界の中に引っ張り戻しつつ、俺は隣のザランに目を戻す。こいつと俺は強力過ぎるので相撲訓練にはほぼ参加しない。

「別に飯は食わなくてもいいんだ、ちょっと話し合いをしてくれればいいんだけど」

 俺が言うとザランは心底嫌そうな顔をするけれど、獣はボスの命令が絶対、俺が言うことを否定はしない。


「……やつらが頭を下げてくるなら、口を聞いてやらんでもないですが」

 しかし、嫌なものは嫌らしい。猫なのでボスがどれだけ言っても嫌なものは嫌なのだ。いじいじとはみ出たウリボウを前足で転がしているので取り上げる。こいつは絶対にそのうちウリボウでボール遊びを始めると思っていた。


 どう考えてもダークエルフが頭を下げるところなど想像もできない。

 俺は溜息を吐き、ボロボロになって泣きながら戻ってきたピーパーティンに回復魔法をかけてやった。

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