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33.

 工房を存分に見学してから村へ帰った。

 俺の布団も用意されているというから、今晩はダークエルフの村で寝ることにした。

 晩飯まで御馳走はいらないと言っておいたから、夜は焼いたイモと干し肉とお茶だった。こういうのでいいんだよこういうので。


 夕方には晩飯を終えて、俺はヤオレシアの家でまったりしている。

 ヤオレシアの家は最初に入った建物の隣だ。最初に入ったところが村の集会場みたいな場所で、その隣が村長の住む家とされているが、前村長はヤオレシアの母だったそうだから、千年くらいはずっとヤオレシア家族が住んでいることになる。


 一緒に暮らしているのはヤオレシアの父と母と妹と嫁と子供二人、結構な大家族だ。

 でも、家の中は居間と寝室の二間のみのシンプルな作り。樹上生活だからそんなに大きな家は作れないのだ。火は居間の中心にある囲炉裏だけ、これで暖房と灯りと調理を全て賄っている。

 水は何件かの家で共有している井戸があった。

 木の上に井戸があるとは奇妙な話だが、形は大きな石をくり抜いて作った水瓶で、底に転送魔法陣が彫られている。それで近くの泉から水を転送しているという画期的な上水設備である。ついでに下水も転送魔法で地上にある肥溜めに転送していた。


 樹上生活も魔法があれば不便がなさそうだ、と思ったが、これらの共有設備を維持する魔力も、この村を守る結界と同じ魔力源から供給していた。つまり、結界が不安定になっている間は上下水道も使えなくなっていたという。

 本当に、魔力源である大樹が魔力切れを起こしかけていた原因は、一生バレないようにしようと思う。


 ヤオレシアの家族は他にも、近所で暮らしている妹弟が三人いるという。上二人は結婚していて子供もいる。下の一人は戦士見習いをしていて、結界の外の見張りなどをしているという。

 妹の一人は昼間の食事会にいたらしい。正直言ってあの場に女がいたことすらわからなかった。前回大樹に案内してくれたのも末の弟だったそうだが、どちらももう一回会ってもわからない自信がある。

 ダークエルフの寿命がどれほどかは知らないが、結婚してから五十年ごとに子供をこさえても、かなりの子だくさんになるのだろう。ヤオレシアと末の妹では三百歳くらいの歳の差があるわけだ。


 それに長命なせいなのか、みんな性別も年齢も不詳だ。

 結婚しているのだから男女の区別があるのは間違いないけれど、揃ってすらりと背が高く、良くも悪くも凹凸のない体形をしている。言われないと弟か妹かわからないし、父も母もどちらかわからなくなる。

 年齢も、よくよく見てみれば父母は小皺があるけれど、老けているのなんてそれくらいだ。みんな銀髪で白髪もわからないし、子供たちも家族の中では背が低いけど、どいつもこいつも縦に長くて、俺よりも背が高い。


 みんな整った顔をしているせいで、なんだかだんだん同じ顔に見えてきた。元より髪型でしか区別がつかなかったのに、夜になるとみんな髪を下ろして緩く結んでしまったから、ほぼ区別がつかなくなった。

 俺はダークエルフの外見観察は一旦諦めた。異国人って見慣れないと同じ顔に見えるよね。そのうち見分けられるようになるだろうたぶん。


 今度は手仕事観察だ。食事も家事も済んだ後は、囲炉裏の周りでそれぞれ内職の時間らしい。

 そう言えば、あまり意識していなかったけれど、魔王になってから視力も良くなったというか、暗闇でも関係なく目が見えるようになった。人間だった頃はこんな小さな焚火だけでは何も見えなかっただろうが、今は囲炉裏の火が無くても問題なく見えただろう。

 でも、囲炉裏の火はあった方がいい。温かいし、キャンプみたいで楽しい。魔界に生まれてからは毎日夜は焚火をしているけれど、屋内で小さな火を囲むのも風情があっていい。


 ダークエルフたちも灯りらしい灯りが無くても、細かい作業を苦もなく熟していた。お客さんがいても日課を変えようとしないところ大変マイペースな種族だ。

 おそらく乾燥させた植物から糸を紡いでいるのがヤオレシアの母メリニシアで、機を織っているのはヤオレシアの父ヤーレアだろう。


「この布は植物の糸か?」

 縦糸に横糸を潜らせていく。延々と同じ作業を続ける手元を覗き込み訊いてみる。


 みんななんか作業をしているから俺もやってみたいと言ったら、ヤオレシアに渋い顔をして「ならば見て覚えろ」と言われた。これは教えるのが面倒臭いと余計なことをするなを、高慢ちき村長が最大限オブラートに包んで伝えた結果だろう。だから俺は今日は大人しく見ている。喋るなとは言われてないから口は挟む。


「そうですよ、うちで使うもんはうちで作る」

「蜘蛛糸は使わないのか?」

「蜘蛛糸は貴重ですから、機織りの名人が任される特別な仕事なのです」

 布作りは機械があるわけではなく、長方形の木枠の長編に沿って糸を並べて張って、横糸を交互に通していくだけの単純な道具しかない。作れるのは手ぬぐいくらいの反物だろう。


 よく見れば、みんなが着ている植物糸の布で作られた服は、同じ色の布がパッチワークみたいに繋げてある。この手ぬぐいみたいな布をいくつも作って縫い合わせているらしい。

 ヤオレシアも家に帰ってからみんなと同じ素朴な服に着替えていた。昼間着ていた刺繍だらけの派手な衣装は村長の式典用の衣装らしい。今着ているのは浴衣みたいな緩い服で、四角い模様に見えたのは一つの服を継ぎ接ぎしながらずっと着続けた結果だ。


 それに比べて、俺が貰った蜘蛛糸の布の服は縫い目が断然少なかった。肩とか脇にしか縫い目はないから、大きな布で作られているはずだ。

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