3.
二番手は少女の姿をしたサキュバスだ。名前をルビィというそうだ。
「私は武闘派ではないのだけど」
相変わらず可愛らしい美少女の姿で、渋々結界の中へ入ってくる。彼女もここにいるということは他に行き場がないのだろう。
「円から出す方法は何でもいいぞ」
「しょうがないからお相手いたしましょう」
そう言うや否や俺の周りに霧が立ち込めた。
違うな。これは夢の中だ。いつから寝ているのか、どこから夢なのかわからなかった。サキュバスを相手にしていると知っていなければ気付けなかっただろう。
ということは、俺は今頃立ったまま白目を剥いて眠っているのかもしれない。嫌だな。早めに目を覚まさないと魔王としての威厳が無くなってしまう。
その時、霧の向こう側に人影がぽつぽつ現れた。
さっきまではこの場にいなかった人間の女の子たちが笑顔で立っている。みんな一様に薄いネグリジェみたいな恰好をしているから、一目で淫夢の魔法だとわかった。
ルビィはまだ俺のことを子供だと思っているらしい。小学生くらいの女の子たちが「こっちに来てぇ~」と色っぽく身をくねらせている。世が世なら即刻発禁になる光景だ。
しかし、近くでよく見てみても粗がない。どっからどう見ても人間の子供だ。
「よくできてるなあ」
俺は女の子たちに近付いてしげしげと眺めまわした。触れることはない。別にコンプラを意識したわけではない。
今の俺は夢遊病者のように眠ったままフラフラと歩いているはずだ。女の子たちは円の外側に立っているから、この子たちに触れようとした時点で俺は場外に出て負けになるのだ。眠っていたって自分で張った結界の位置はわかる。
まあまあな作戦だ。魔法の精度も高い。これで出てきたのが大人のオネエサンだったら、夢とわかっていても飛びついたかもしれない。
敗因は俺の好みをわかっていなかったことだ。
技術が高いだけに残念だ。世の中には見た目の良い異性なら誰でもいいというやつは一定数いるけれど、どれだけエロい夢でも好みじゃなければ萎えるというやつも多い。淫夢の魔法は使いこなすのが難しそうだ。
俺が魔法の解析をしていると、後ろから近づく気配があった。俺がなかなか円の外に出ないから、痺れを切らして実力行使に出たのだろう。
背中を押される瞬間、俺は目を覚まして身を翻した。同時に背後にいたルビィの足を引っかけて転ばせる。
「ほげえっ?!」
可愛らしいサキュバスは残念な声と共にズッコケて円の外に出た。
「さては、おまえもこの魔法しか使えないな」
サキュバスという時点で淫夢を警戒されるだろうに、初手で使ってきたうえに、次の手が物理攻撃ということは、これしか使えませんと言っているようなもんだ。
「どうしてエロい夢に反応しないのよ! もしかして不能なの!?」
ルビィは俺の問いには答えないが、この八つ当たりの仕方を見れば俺の推測が正しいのだろう。
「子供は対象外」
「言ってよ!!」
「気付けよ」
ピーパーティンは使える魔法自体がしょぼかったけれど、ルビィは一つしか使えないとしても魔法の精度は高かった。彼女は高度な魔法は使えても、使いこなせないという方向のポンコツらしい。
「俺はセクシーな美女が好きだし、それ以上に今は可愛い生き物の方が興味ある」
そう言ってやれば、結界の外に座り込んで不貞腐れていたルビィはハッとして、ピーパーティンの方を見た。やつは俺に気に入られたということで、プライドもなく可愛い鳥の姿のままだ。
緑色の小鳥をジーッと見てから、ルビィは徐に黒猫に変身した。しかも、さっきまで雨なんて魔力で跳ね除けていたくせに、猫になった途端に雨に打たれて、びしょ濡れの哀れっぽい姿できゅるるんと俺を見上げてきた。
こいつは学習能力があるし可愛いをわかっている。
「採用、雑用係二号だ」
そう言ってやれば、ルビィはフフンッと勝ち誇った顔をしたけれど、憐れさと可愛さでギリギリ合格したのだから、もう少しプライドってもんを考えてほしい。
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