表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/97

28.

 その途端にオーガたちがワイワイ集まってくる。強いやつの相撲は良い娯楽になっている。

 俺は戦闘狂じゃないから毎度相撲するのは面倒臭い。でも、子分たちに力を示すためと、娯楽の提供も魔王の仕事と言えなくもないから、出来るだけ勝負を挑まれたら応じるようにはしている。だいたい勝負を挑んでくるのはクーランばかりなのだが。


「そう言って、ギルバンドラ様は負けたらもう一回って言い出すからな」

「うっさい、魔王が負けたまま帰れるかってんだ」

 今度は俺が膨れっ面をして、クーランは苦笑する。普段のクーランなんてただの相撲馬鹿のくせに、土俵に立ったら一丁前に強者みたいな顔をする。


 まあ、クーランが強者なのは間違いない。毎度クーランが俺に相撲を挑んでくるのは、ボスだからではなく一番強いからだ。

 オーガどもは常日頃から相撲を取っている。その中で一番多く勝ったものが俺に挑めるというルールができているらしい。だから、たまにクーランじゃないやつが俺に挑んでくることもあるけれど、今のところ森林地帯での相撲相手は八割方クーランだ。森の王の名は伊達じゃない。

 ちなみに俺の勝率は九割強、たまに負けるのはクーラン相手だけだ。負けてもすぐさま再戦するから常に勝ち越してはいるけれど、たぶん魔法禁止で戦ったら圧倒的にクーランの方が強いと思う。言わないけど。

 なんやかんやオーガの相撲は俺の戦闘訓練にもなっている。初めは俺もギリギリ勝ててたけど、最近は結構格好付くようになってきた。


 相変わらず審判はいない。開始の合図もない。俺とクーランは向かい合って睨みあって、ワイワイしていた周囲が息を飲んで鎮まり返った瞬間、ほぼ同時に飛び掛かった。


 身体強化の魔法を使ってもスピードはクーランの方が若干早い。同じタイミングで踏み込んだのに、俺の方が土俵際に近いところで拳が合わさる。

 クーランはいつも通り捨て身の攻撃型だから、防御なんて端から考えずに殴りかかってくる。

 俺はやっぱり痛いのは嫌だから、耐物理結界を展開しつつ、相手の攻撃の隙を狙ってボディにダメージを与えることを重視する。でもクーランはとにかくタフだから、いくら殴ってもぜんぜん勢いが衰えない。たぶん骨折しているところもあるだろうに、心底楽しそうに殴るのを止めないのだから、戦闘狂恐い。


 しかし、相手も阿呆じゃないから力押しだけでは終わらない。

 クーランが片足を大きく振りかぶったのを見て、俺は回し蹴りを警戒して前面に耐物理結界を集中させる。クーランの蹴りは俺の結界でも防ぎきれない可能性がある。

 だが、蹴りはフェイントだったらしい。結界が全面に集中することを予想していたクーランが、いつの間にか俺の背後に移動していた。


 俺は完全に無防備な背中をとられた、と思わせといて、背後に火魔法で火炎放射をお見舞いする。後ろをとられてバックドロップのようにぶん投げられたのは、前回の俺の敗因だ。同じ技は通用しない。

 でも、俺もクーランが炎にまかれている間に転がり逃げるのが精一杯だ。クーランは初回の時から炎をぜんぜん恐れないから、多少スピードが落ちただけで平気で飛び込んでくる。治癒魔法でどうにでもなるとは言え、焼け焦げながら笑っているのは本当に恐いからやめてほしい。

 あと、毎度身に付けているものも焼けてしまうから、焼いているのは俺だけど、すっぽんぽんでも誰一人怯まない精神はどうにか矯正したい。


 俺は転がって回避したから地面に倒れている状態、クーランは炎を飛び越えて上から降ってくる。明らかに俺が不利だ。


「もらったぁ!!」


 勝利を確信したクーランの声に、観戦しているオーガたちも最高潮に盛り上がる。


 だがしかし、これしきで負けるような俺ではないのだ。なにせこれは、相撲とは名ばかりの何でもありの大乱闘なのだから。


 地面に触れている俺の手から岩が生える。大砲並みの早さと威力で伸びあがる岩を、クーランは空中にいるにも関わらず身を捩って寸前で回避した。だが、追い回すように次から次へと生えてくる岩に、跳ねながら後方へと跳び退けることしかできない。

 そのうち、岩は生き物の触手のようにクーランの片足に絡みつき、その質量で足を握り潰した。

 複雑骨折どころじゃなく、皮一枚で繋がっている状態だ。流石のクーランも痛みに顔を歪めているが、今は勝負中、俺は心配する前に片足で着地に失敗したクーランの横っ腹を蹴って土俵からはじき出した。


「今日も俺の勝ちだ」


 俺は高らかに勝利宣言した、つもりだがゼイゼイ息を切らしているから格好は付かない。最近、俺も結構戦い慣れてきたと思っていたが、相撲に明け暮れているクーランだって上達するのだから、力量差はぜんぜん変わらない。

「負けたー!!」

 クーランは清々しく負けを認めて大笑いしているが、片足が千切れかかっている状態で笑わないでほしい。本当にこの戦闘狂恐い。


 俺は転がったまま起きないクーランに近付いて、治癒魔法で片足を蘇生してやる。オーガたちも治癒魔法は使えるけれど、四肢欠損を再生させるだけの力はないらしい。というか普通は身体の一部を生やすことはできないらしい。俺は普通に出来るけどね。


 クーランの我が儘には付き合ってやったから、俺はそそくさと森林地帯を後にした。あそこは留まっていると際限なく相撲を挑まれる。一番強いやつが俺に挑めるというルールは最初だけで、後は特に順番がないガバガバルールなのだ。


 あとは北西の山脈地帯だけど、巨人たちはとてものんびり屋だから、毎日顔を出しても特に進捗は変わらない。命じたのも魔王城の建築資材になりそうな岩の選定や、金属類の探索だから、今すぐ成果を上げられても俺の方にそれを利用する知識がない。

 そもそも巨人は動いている時間より寝ている時間の方が多い。十日に一回でも赴けば充分だ。


 今日はもう寝床になっている草原地帯へ帰ることにする。

「それにしても、やっぱり問題はノウハウの無さだな」

 魔王は力だけじゃやってられない。そんな現実を痛感する毎日だった。

少しでも面白いと思ったら是非ブックマークお願いします。

いいねや★付けていただけると嬉しいです。

感想やレビューも待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ