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25.

 とりあえずダークエルフとの顔合わせはできたので、俺は一旦樹海から出た。やりたいことはたくさんある。

 すぐにでも手を付けられるのは農業だ。なにせ、畑を耕すレベルではなく、まずは食べられて育てられて増やせる植物や動物を探すところから始めねばならない。


 魔界の中で農業に適しているのは、間違いなく草原地帯と森林地帯だ。

 草原地帯は乾燥気味だが、沼地から樹海へと草原を蛇行するように流れる大河があるから、水はなんとかなるはずだ。森林地帯にも北西の山から東の海へと流れる川があるし、気温が低いけれど植物が育たないほどではない。

 一応、魔界にも季節の移り変わりはあるらしいが、雪が降るほど寒くなるのは森林地帯の北の方だけだし、草原地帯は一年を通してそれほど気温の変化はないという。


 なので、手始めに獣たちが日ごろよく狩っている獲物の中から飼育できそうなやつを探しつつ、岩場のやつらやゴブリンなどに採集をさせて、農作物に出来そうな植物を探すことにした。

「大まかに班分けする、採集チームはとにかく食えるものを探せ、戦えるやつらは狩りをしつつ採集チームの護衛だ、喧嘩するなよ」

 俺は草原に子分たちを集めて説明する。舞台らしい舞台もないから、今日もザランの上に仁王立ちだ。


 草原地帯のことは基本的にザランに任せるつもりだ。ザランも事務的なことはぜんぜんできなさそうだが、参謀や秘書らしき子分もたくさんいるから何とかなるだろう。

 ここまであんまり役に立たなかった岩場の雑魚たちも、これからは大いに働いてもらう。

 だが、非戦闘員はふらふらしているだけで魔物に食い殺されそうだから、戦えるやつらとセットにする。今後も農民と戦闘員で分業していく必要があるだろうが、今はまだ明確な役割分担をしている余裕はないから、だいたいの班分けだけだ。


「集めるのは食えるやつで、これから自分たちで育てて増やしていけそうなやつな、獣は言葉喋らないやつがいいな」

 まずは、どんなものがいるか調べないことには具体的な計画も立てられないから、俺は大雑把な指示しかできない。


 特に、獣と魔物の線引きが難しい。


 この世界にも魔物とか魔獣とか魔族とか、色々と呼び方はあったけれど、当の魔界の住人たちに言葉を使い分けるという概念がなかった。

 なんとなく、草原の獣は魔獣と呼ばれることが多い。オーガたちは自分たちのことを魔族と認識してるっぽい。ただ、はっきりとした区分はないから、草原の獣でも獣人系は魔族と呼ばれていたり、オーガが飼育している猟犬用のオオカミたちは魔獣ではなく魔物と呼ばれていた。

 魔界は魔力が濃いから、魔法が使えるかどうかは別として、ほぼ全ての生き物が体内に魔力を有している。大雑把に魔力が多ければ魔物で、魔力が少なければ獣だ。そして、魔物の中でも二足歩行が魔族で、獣型が魔獣で、それ以外がただの魔物だ。


 でも、やっぱり魔力量の境界線は曖昧だし、ゴーストだの悪魔だの、そもそも生物でないものまでいる。

 かと言って、知能レベルで判断するのも曖昧だ。

 言葉を解し道具を駆使する獣もいれば、ゴブリンみたいに人型に近くても知能の低い魔物もいる。虫型の魔物などはほとんど喋らないが、虫の王なんか俺よりも頭がいいかもしれない。


 結論としては、魔物の分類は俺には無理。


 だがしかし、ゆくゆくは共食い禁止令や殺し合い禁止令を出したいとは思う。そのためには共食いの定義を決めなければならず、最低限、仲間と家畜の境界線は決めなければならない。

 とりあえず今は単純に「知能が低くて弱くて飼育できそうで有用性のあるもの」というのを獲物として、いずれは家畜と呼ぶこととする。


「草原地帯の調査指揮はザランに任せる、集めたものはまとめて報告しろ」

「お任せください」


 ザランが自信満々に答えたが、こいつはどうせ子分どもに丸投げして日向で寝ているのだろう。

 だが、それも大事な仕事だ。ザランという強者が常に目を光らせているから、草原地帯ではこれと言った争いごとは起きていない。

 弱肉強食は相変わらずだから、強いものがふんぞり返って弱いものがヘイコラ諂っている。ただ、獣は群で行動するのが基本だから、強者は弱いやつでも従う意思のあるやつは守る。

 だから、とりあえずはザランたちに任せてみる。問題点もやってみなくちゃわからない。


 最近一番驚いたことは、魔界にも文字らしきものがあったことだ。

 完全に象形文字で、数と動植物や道具を表す少ない記号しかないし、文字の読み書きができる者は限られている。それでも、魔界全土で同じ文字が使われているから、生息地域や種族が違っても文字は通じるのだ。

 長年いがみ合って、争う以外に交流らしい交流もなかったというのに、どんな風に共通文字が広がっていったのか謎だ。でも、今は魔界の歴史を調査している暇はない。魔物に文字という概念があり、文字があるから記録を残せる、これだけで充分だ。


 ザランの部下の中では、黒豹の獣人ガルドが文字の読み書きができる。ザランの右腕的ポジションだし、真面目だし、細かい事務仕事もできそうな雰囲気のインテリ系の獣人だ。

「おおよその区画分けはできてます、初めは戦闘力と体力で班分けをして、後は様子を見て適宜変更していく予定です」

「さっすが仕事が早い」

 ガルドのテキパキした説明を褒めれば、ガルド本人だけでなくザランも自慢げな鼻息を吐く。群を重んじる獣の中では、何もしていなくても部下の評価は上司の評価になるらしい。

 俺は子分からの報告を待つだけでいい。今度は沼地へ向かう。

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