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21.

 牧畜についても、食うための生き物を飼育しているやつは魔界にはいないらしい。狩で食っていけるんだから、わざわざ育てる必要もなかったのだろう。

 漁業は浜で釣りをするくらいならできる。一人用のボートを作る技術はオーガが持っていた。川での漁は獣たちもできるが、こちらも自分で食う分だけを水に入って獲るだけだ。漁業というほどのものはない。


 食料自給は一から試行錯誤していくしかないようだ。

「樹海の傍まで来たから、ダークエルフに挨拶してみよっかな」

 俺は思い付きで樹海に踏み込むことにした。

 一瞬、獣たちがもの凄く嫌な顔をした気がするが、俺が目を向けるといつもの顔に戻った。ダークエルフに対して何かあるのだろうか。


 ダークエルフは樹海の中に住んでいるというだけで、縄張りを主張しないし、樹海全体を掌握しているわけでもないらしいから、相撲を挑む必要もないかと思って放置していたが、服を着て生活しているというから交流は持っておきたい。この樹海も魔界の一部で俺の領土のはずだし。

「では、結界を張れ、隊列を組め、ウルフ隊は先行してダークエルフを探せ」

 ザランの右腕である黒豹の獣人ガルドがテキパキ指示を出す。


 樹海の中は言葉の通じない魔物や食獣植物が犇めいているから、常に警戒して進まなければならない。

 ここ以外の場所なら、強いやつの気配を察知すれば近付かないか媚びへつらうかのどちらかだが、樹海には知能のある魔物がいないのか、それとも命知らずばかりの無法地帯なのかわからんが、俺やザランでも平気で攻撃されるらしい。

 森中あちこちから強大な魔力溜まりを感じるから、方向感覚もよくわからなくなってくる。先行している狼みたいな魔物たちが声を掛け合いながら道を探っている。

 俺もザランも何が来ようと全部返り討ちにして瞬殺だが、いちいち相手にしていたら進めないから、雑魚は子分たちに任せてザランは堂々と木々の間を歩き、俺はその背で悠々と樹海の植生を観察する。


 南の樹海はまさしく闇鍋、植生は多種多様のちゃんぽん状態だ。一見熱帯雨林のように見えるけれど、中には針葉樹があったり白樺みたいな大木もあるし、高山植物みたいな小さく可憐な花の隣にラフレシアみたいな毒々しい花も咲いている。しかもどちらも花に毒があり、葉で生き物を捕まえて根っこで食い殺すらしい。

 動物も鳥とか猿とか見慣れた形のものもいるが、どいつもこいつも色味がカラフルだし、角や牙が生えていたり、攻撃性が高い上に隠れる気もなさそうだ。

 特に多いのは虫だ。こちらも俺の想像を超えて珍妙奇天烈で禍々しく、大きかったり、変な色をしていたり、角や牙があるだけじゃなく、全身棘だらけとか大砲みたいなものが背中から生えているとか、野生で生きるには逆に生き辛そうな形状のものが多い。


「殺意がすごいな」

 獣人たちが張っている結界に巨大ムカデがベタッと張り付いてくるのを見上げて、俺はちょっと引いた。見た目が気持ち悪い。獣人の結界で防げるのだから攻撃力は大したことないだろうに、それでも俺たちに向かってくる攻撃性が恐い。

「樹海の連中はとにかく動いているものに襲いかかる習性がある」

 ザランがフンッと鼻息でムカデを吹き飛ばす。飛んでいったムカデは落下した草むらでガサガサしていたが、そのうちどっかに走っていった。かと思えば、木々の向こうでドッスンバッタンと別の生き物と交戦している。


 本当に虫には知能はなく、歩き回って遭遇したものに食らいつく本能しかないようだ。植物が鬱蒼としていて遠くは見えないが、常にどこかで何かが戦ったり食われたりしている音だけは聞こえてくる。

 あちこちに点在する魔力溜まりの影響で動物も植物もめちゃくちゃな進化をしたのだろう。これはいくら獲物が豊富だろうと住みたいとは思えない。誰も縄張りを主張しないわけだ。確かに隠れ住むには絶好の場所だが、こんなところに住んでいるダークエルフたちは、もしかすると凄い実力者なのではないか。


 そう考えていると、ダークエルフたちの方からやって来てくれた。

 偵察隊のようなやつらが身を隠してこちらを伺っている。気配の消し方が上手いけど、知恵ある生き物との戦闘経験は浅いらしい。こんなに魔力が充満している森の中で、完全に気配を断てば不審な空白地帯が生まれてしまう。こういう場合は森の魔力に溶け込むのが正解だ。

 魔王を迎えに来てくれたわけではないようだが、侵入者の様子を伺い無暗に攻撃してこないだけで上出来、樹海に入って初めて遭遇する知能ある生き物だ。


 俺がザランの上に立ち上がると、獣たちも偵察の気配を察知して立ち止まった。

「この方は魔王ギルバンドラ様だ、ダークエルフどもよ、住処へ案内しろ」

 この場で二番目に偉いザランが声をかける。俺にもようやくまともな部下ができた。

 先行していたウルフ隊が集まってきている。ダークエルフたちは木の枝の上に隠れていて地上にはいないようだ。相談している声は聞こえないけれど、木の上で微かな魔力が行き交う気配があるから、魔法での通信手段があるのかもしれない。


 しばらくすると、樹上から声が聞こえた。

「ついて来い」

 挨拶どころか姿も見せない。気配だけでどちらに向かっているかはわかるけれど、魔王に対して礼を以て接する気はないらしい。

 獣たちの、特にザランから、イラっとする雰囲気は伝わったが、俺は気にせずダークエルフたちを追うように指示する。アポもなく勝手に来たのは俺たちの方だからね。


 枝から枝へと飛び移る気配は、良く言えば忍者、悪く言えば猿みたいで、なんか言葉を真似る猿みたいな魔物に騙されていないかちょっと不安になる。それでも黙って付いていくと、丸い結界に守られている集落に辿り着いた。

「おお、ぜんぜんわからなかった」

 ここはさっき近くを通った場所だ。何もない森だと思っていたが、よく見てみればまったく同じ風景が繰り返されている。幻覚魔法と防御結界の重ね掛けで完璧に集落を覆い隠しているらしい。

 気付いてしまえば不自然さは一目瞭然だ。異常に背の高い木々の上にシャボン玉みたいな結界が張られている。外からの侵入を防ぐ結界と、中にいる生き物の気配を消す結界だろうか。その中にたくさんの生き物がいることが、よくよく観察してみるとわかる。

 ここまで連れてきた偵察隊は、何も言わずに結界の中に入っていったようだから、俺たちは招かれてもいないが追い払われてもいないのだろう。

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― 新着の感想 ―
いつもXで反応してくださっているお礼に、作品読ませていただきました。 まだ始まったばかりのようですので、感想は『魔界統一の手段が相撲ってw』とだけ述べさせて頂きますw これからも執筆活動頑張ってく…
2024/12/05 12:02 退会済み
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