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2.

 生まれた時から名前は決まっていた。誰が付けたかは知らない。魔王ギルバンドラ、唾を飛ばさないと口にできないような名前だが、名前のキャンセルは難しそうだ。


 これは生まれた時からわかっていたが、俺は魔法が使える。


 それも、たぶん他の魔法が使えるやつらは自分の体内で生み出される個体魔力しか使えないのに対して、俺はこの世の全ての自然魔力を無尽蔵に使えるうえ、光属性以外の全属性魔法を使えるという、パワーバランスが俺に傾き過ぎている状態だ。

 ついでに魔力を体力や生命力にも変換できるから、物理的な戦闘力も上限知らず、実質不老不死、こんなラスボスが出てくるゲームは絶対プレイしたくないくらいのチートだ。


 それはともかくも、自然魔力を自由自在に使える特殊器官は、生まれながらに俺の魂に根付いている。この反則的に物凄い魂が俺だと定義づけられている要因は名前だ。

 他の生き物が名前を貰うのとはわけが違う。俺は魔王だからギルバンドラなのであり、ギルバンドラだから魔王は俺なのだ。

 でもまあ、濁点が多いというだけで名前を変えようとは思わないから、これはもういい。俺は魔王ギルバンドラよろしく。




 そしてもう一つ、目覚めた時からなんとなくはわかっていたことがある。

 魔王誕生の瞬間に多くのバケモノどもが集まっていたけれど、言うても百匹程度だ。魔界にいる魔物がこれで全部なわけがない。

 つまりは、魔王復活がなんぼのもんじゃいと思っているやつが各地にたくさんいるということだ。

 俺の魔界文明化計画は大変慎ましいものだが、それでも人手は、いや魔の手は多いに越したことはないし、無駄に反発されて邪魔されるのも面倒だ。


 だから、まずは文明化の礎に魔界の魔物どもを全部俺の配下に入れたい。

 実に幸運なことに、それはとても簡単だった。

「よし、まずはここにいるやつら戦うぞ」

 魔界統一を掲げた俺は、手始めにこの場に集まっている魔王万歳派閥のやつらを笑顔で見回した。


 魔物とは、この原始的な生活様式を見てもわかる通り、とても原始的だ。唯一のルールは弱肉強食、強いものは弱いものを従え、弱いものは強いものに従う。

 なので、俺がすることは魔界中のやつらを片っ端からねじ伏せて行けばいいだけだ。

 そのために、とりあえず自分の実力を知りたい。


 俺が生まれながらにわかっているのはハチャメチャにチートだということだけで、実際にその力がどれほど使えるのかわからないし、この世界にどんな技術があるのかもわからない。

「俺の練習台になれ」

 俺は優しく言ったつもりだったが、周りにいた奴らが一様に顔を引き攣らせた。

「い、いやいやいや魔王様に練習なんていらねっすよ~」

「魔王様ならどんな力も使え熟せますわ」

 大岩の結界の中にいた奴らが一斉に土砂降りの雨の中へと戻っていく。岩の舞台の下から媚びた笑いを浮かべている。

 弱肉強食が唯一絶対のルールだからこそ、強者に媚びへつらうのも魔界では正しい態度なのだ。


 それはわかる。ただ、俺は媚びるだけのやつはいらないんだ。

「よし最初に声を上げた鳥男、おまえからだ」

「いやいやいや無理っすよ~」

 狂ったように首を振る鳥を、俺は魔力で無理矢理舞台に引っ張り上げた。相手は小鳥だからそっと魔力で包んだつもりだが、鳥男はグエッと潰れたような声を上げた。実際に潰れてはいないから力加減はできている。

「殺しはしないしどんな重傷でも治してやる、でも本気で来ないと殺す、あと俺に勝てたら俺の力を全部やるよ」


「よっしゃやってやらぁ――!!」


 報酬を出した途端、小鳥は元の怪鳥の姿に戻って空に飛び上がった。

 改めて見ると、体長二メートルくらいある頭でっかちなヨウムだ。ちょっとイカレたような目と、恐竜みたいな足がグロテスクで魔物らしい。

 清々しいほどの手のひら返し、清々しいほどのバカ、ここまで潔いといっそ好ましい。

「殺さないように、ルールはこの円から出たら負けな」

 俺は雨除けの結界の内側に丸い結界を張った。これは少し色が付いているだけで特に何の効果もない。ただ場外に出たかどうか判別しやすくしただけだ。空を飛んでいる鳥男のためにドーム状ではなく、円柱状で少し背を高くした。


「ヒャッハー! こんな生まれたてに負けるかよ!!」

 鳥男はさっそく風魔法を結界内に展開した。

 竜巻のような強風が大岩の上を暴れ回るが、ただの強風では俺の髪一つ靡かない。

 その強風の中から刃物を振るうような音が聞こえた。

「カマイタチみたいなものか」

 強風を一点集中させて切り裂く魔法か。この暴風の中で見えない刃が飛び回るのはなかなか凶悪だ。


 俺は円の中を歩き回って風の刃を避けたり防いだりして観察する。原理はとてもシンプルだからすぐに理解できた。

「こうするのかな」

 そう言った瞬間、空中にいた鳥男の右の羽がすっぱり吹き飛んだ。


「ぎゃえぇぇ~~~~参りました!!」


 鳥男は即座に岩の上に落ちてきて、同時に土下座した。姿は鳥人間になっている。本当に清々しい切り替えの早さだ。

「調子こいてすんまっせんっした~!!」

 泣いて許しを乞うているが、男の右腕は切れていない。羽毛が削がれて鳥肌が見えているだけだ。

「おまえ……もしやさっきの魔法しか使えないのか?」

「そうっす、風吹かすかウィンドカッターしか使えません、特技は飛べること、得意技は逃げることっす」

 鳥男は鳥系の魔物の中でも弱過ぎて群から逃げてきたという。特技は鳥として当たり前すぎるし、せめて得意技をウィンドカッターと言え。


 そして、鳥曰く、ここにいる連中はだいたいはぐれものだという。弱くてどんな群にも入れないやつが、新興派閥になるだろう魔王を頼ってやってきているという。

 どうりでまとまりがないし媚びるやつばっかりだと思った。

 俺は正直にゲロった鳥男を呆れた顔で見下ろした。まあいいけどね、間違いなく俺は生まれたてだし、魔王として新人もいいとこだし。

 鳥男はここから追い出されたらもう行くところがないと泣いているけれど、この変わり身の早さならどこでもやっていける気がする。


 俺が何も言わずにじっと見下ろしていたら、鳥男は徐に小鳥の姿に戻り、きゅるんきゅるんの顔で見上げてきた。


 こいつは可愛さをわかっている。得意技は媚びへつらいに変えるべきだろう。

「名前は?」

「ピーパーティンっす!! よろしくおねがいしぁーす!!」

「せめて採用って言ってからよろしくしろ、まあいいや、今日から俺の雑用一号な」

「あざーっす」

 鳥男改めピーパーティンの軽すぎるところは矯正するべきだが、俺はちゃらちゃらな子分を一匹手に入れた。

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